見越
悪霊は俺のことを全く脅威だと思っていないらしい、俺を無視して後ろを向いた。
「なめやがって」
剣を振りかざしながら突進し、切り込んだ。しかし、傷を負ったのは剣の方で、奴の方は全くの無傷。そして、逆方向にぶっ飛んだ、手首に激痛が走る。尻餅を着いたと同時に、剣が砕けてお札に戻り地面に落ちた。
「霊力の塊ですからね、吸着することに力を使い、およそ攻撃にも防御にも秀でていない、ただの棒じゃそうなるでしょう」
いや、だって、肉塊に見えたもん、ハムみたいにスライスするイメージだったもん。
「つーか、飛鳥。お前も嫌味言ってないで手伝え!!」
飛鳥が残念そうな顔で俺を見た。
「無理です。弾切れならぬ、お札切れです」
いやぁ、参ったな。さっきの攻撃で俺も弾切れなんだ。地面にどれか再利用出来そうな奴を探すが、真ん中から破れていて使用不可能な状態に。先ほどの衝撃で全部、駄目になったらしい。大人しく、飛鳥に渡せば良かった。
「あーあ、下手に恰好つけたばっかりに」
「すいません」
仕方ない、助けを呼ぼう。俺達子供の手には負えない。
闇の中に消えていく鬼。よく見ると、顔が真ん丸としていて、舌出しっぱなしで、涎流しっぱなしで、まさにグロテスクそのもの。なんかゾンビゲームのラスボスみたいだ。ありゃ無理だ、だんだん肌が痒くなってきた。
「よっしゃ、うちの出番じゃな」
さも英雄きどりだが、元々お前が原因だということを忘れるなよ、よつば。
「出でよ!! 我が式神!! 見越し入道!!」
掛け声と共に登場したのは、あのゾンビ肉達磨をも遥かに凌駕する巨大な妖怪。遠くで見ると石像に見えるらしいが、近くで見ると白い気体なのが良く分かる。流石の肉塊も驚いたのか、慌てて振り返ったが、そこをすかさず入道が捕えた。
「必殺!! えっと、なんだったっけ?」
「よつば様、豚野郎はお仕置きよアッパーです」
「えっと、じゃあそれ。それをするのじゃ見越し入道!!」
巨漢の割に頭が良いのか、ご主人様の命令にしっかり従い、ただのアッパーが豚野郎の顎にヒット。気持ちの悪い悲鳴を叫びながら、背中から倒れる。
「とどめじゃ入道!! えっと……」
「あの世で悔いて詫びろこのド低能めパンチ」
「あの世で悔いて詫びろこのド低能めパアァァァァァァァァンチ!!」
見事、ただのストレートが肉塊の腹に直撃し、割れた風船のように萎んでいく。鬼は元の姿に戻り、悪霊は消滅した。いや、なんだこの結末。悲しくなってきた。結局、最後に活躍したのよつばじゃん!! 俺はいったい何の為に……。そんな俺を捨て置いて、恒例のハイタッチをしてやがる。
まあ、いいや。無事に何もかも解決したし……ちょっと待て。まだ何も解決してないような。
次回、一話完