陶の村 之 弐
と、まぁそんなこんながありまして。
今現在、陶家の賊村で歓迎の宴とやらを開いてもらっている。
もらっているが、そこまでのことをした覚えがない。
確かに、陶順は助けたけれど、それだけでここまでの高待遇は違和感を覚える。
まるで英雄を褒め称えるような宴で、間違っても娘を助けてくれただけのただの通りすがりの旅人に催す様な宴ではないと思う。
やはり何かあるのだろう。あの2人を疑うのは嫌だが、警戒はしておいた方がいいか。
しばらくして宴も終わり、ヤスさんに滞在中に使わせてもらう寝室に案内してもらった。
しかし寝付けず、鞄から電気仕掛け(・)のランプを取り出し、何もない(・・・)空間に(・)手をかけ、本を抜き取る。
空間から取り出した本の説明としては、あの謎の金髪が聞いた質問を覚えているだろうか?俺はあの時持っていくものに本を望んだ。
その答えがこの見えない書庫だ。
今読んでいるのは、現代の兵法と孫子の兵法が書かれたもので結構面白い。
一応仕官しに行くつもりなので勉強はしておいたほうがいいだろうと思って読み始めたが、嵌まってしまった。
このランプも母さんから隠れて、書庫の知識を使って作ったものだ。
失敗続きで参ったが、23個目でやっと完成した。
これ以外には自分用の武術を作ったことと、お菓子を作る位にしかこの書庫は使っていない。
色々とオーバーテクノロジーの塊だ。
「さて、そろそろか?」
何がかと言うと、
「高凌、少しいい?」
陶家のどちらかが来るタイミングだ。
善次郎さんの方が来ると思っていたが、陶順か…
「ああ、入ってくれ」
「うん」
ランプは油のものと変えるか迷ったがそのままにしておいた。
盗まれることもないだろうし。
「本を読んでたの?ごめんね、邪魔して」
「いや、気にしないでいいよ。それで?俺をここに連れてきた理由を話してくれるのか?それとも別の用事?」
改まって聞いてみると、一瞬何故分かった!?みたいな顔をしたが誰だって分かると思う。
「分かってたの?あなたを連れてきた理由の方よ」
「やっぱりか…」
「騙すような事をしてしまってごめんなさい。でも、そこまでしてでも頼みたいことがあるの。それが理由」
「それで?頼みたいことって言うのは?」
彼女は意外そうな顔をして言う。
「怒らないの?騙して連れて来て、挙句に危険なことを頼むかもしれないのよ?」
「いや、だって…最初から何か隠しているのは知ってたし。善次郎さんと真名の交換もしたから、無関係って訳でもないし、ね」
すると今度は、一瞬ポカンとした顔になり、すぐに、悪戯する子供のような表情へと変わった。
「あなた、最初に会ったときから思ってたけど…凄く変なヤツよね」
「失礼な」
それに対して俺は少し拗ねた様に言う。
少しのあいだ沈黙し、どちらともなく笑い声が上がった。
「ふふっ、それでね?連れて来た理由なんだけど」
ふと、真剣な話だったのを思い出し我に返る。
「実は明日、ここに妖が来るの。週一回の生贄を求めてね」
ま、まさか…
「俺にそれに食われろ、と…?」
「違うわよ!倒してほしいと言ってるの!」
は?今なんて?倒せ?アレを?俺が?
「いやいや、無理だろ?確かアレって一日あれば町1つ潰せるって聞いたことあるぞ」
「それは、特別強いヤツよ。うちの村に来ているのは、下級から中級の間位のヤツよ。高凌なら楽勝の筈よ?」
なぁ?陶順さん?君の中の俺はどんだけ強いんですか?
明らかに俺を超越してしまっているよ。
「じゃ、頼んだからね?お休み!」
彼女はそれだけ言うと走り去ってしまった。
断ると言う間も与えずに…
「夜逃げ…するか?」
いや、さすがになぁ…
善次郎さんや、陶順を見棄てるのもな…
「しかしどうやって、倒せと?」
母さん、どうすりゃいいのさ…
次回は、妖初登場。
そして、主人公の秘密的なものを書いちゃいます。
オリキャラ解説
靖凱 灯岳
名前の由来――やはり、ヤスという名前の人物を出したくなって書きました。が、後から名前がとんでもなくカッコいいことに気がつきました。
名前の意味は、静かに勝鬨を挙げ、灯らす山岳となった。
この後も登場させるか、悩み中。
言葉に、妙な訛りがあるが礼儀はある程度わきまえている。
少し抜けているところがあるが、優しく力も強い。
若手の中では一番強いらしい。
年齢 23歳