洛陽への道 之 壱
「…如何してこうなった」
今俺は、数十人の賊に囲まれている。
それも、襲われてるとかではなく、宴会の席に招待されて…
「あれ、高凌の旦那!全然飲んでないじゃないですか!酒の席なんだからジャンジャン飲まないと!」
「あ!ほんとだぁ~。お酌しますからドンドン飲んでくださいね?高凌さん!」
「あ、あはは…本当に、如何してこうなった」
数時間前、洛陽を少し南に行った森の中
「く、クソッ!こんなことになるなんて聞いてなかったぞ!?呂布や張遼は正規軍と共に囮の奴等を討伐に行ってるはずじゃないのかよっ!?」
「じゃあ、何なんだよ!この数はっ!!…ッガ!?」
「ヒィッ!?」
「なんだってこんなことに…!」
自分の隣の人物があっけなく死んだことに悲鳴を上げる者、自分が死んだことに気付かずに一瞬で首を切り落とされた者、腕や足を失くした者、その他にもたくさんいるであろう死傷者の群れ。
そこでは洛陽の正規軍と、黄色い布を巻いた…一揆勢か?が争いを起こしていた。
いや、争いと言うには一方的過ぎる。
アレは、戦いや争いの類じゃない…アレは、虐殺だ…
助けるか?――どっちを?
なら、見捨てのるか?――後悔しないのか?
「…見捨てよう。俺じゃ大して力に成れそうも無いしな。それに、相手は洛陽の正規軍だし、目を付けられるのはゴメンだね」
自分の力の無さと、助けないことへの言い訳に心の中で悪態を吐きつつこの虐殺が終わるのを待とうとした時だった。
「い、いや!離して!」
「ハッ!中々の上玉じゃねぇか」
「あんたみたいなヤツに褒められても嬉しくなんて無いわよ!さっさと離せ!この不細工野郎っ!」
「気が強いところも俺好みだ…別にここでおっぱじめてもいいんだぜ、俺ァよ。ゲハハッ!!」
うわぁ…レイプ現場じゃん…なんでこう、気が滅入ることばっかり立て続けに起こるんだよ…
でもあれだ、向こうの大量虐殺よりましかもな。
俺が助けられるし、な。
俺の一方的な憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ?レイプ魔さん?
「≪植物は我が意のままに動く≫…ウグゥッ」
植物が俺の意思に従って動くように思いを込めて、言霊を呟く。10秒ほどの強烈な頭痛と酷い吐き気の後、レイプ魔の男を縛り上げるように伝える。
すると植物達は本当に俺の意思に従うかのように、蠢き、男を完全に動けないように縛り上げた。
「なっ!?何だこれ!?うわっ!く、来るんじゃねぇ!?うぎゃ!?クソッ!!離せ!離しやがれ!!」
「…え?何?これ…」
しかし、目の前でありえない事が起こったせいかレイプ魔の男だけじゃなく、襲われていた女性(少女か?)も動けなくなってしまったようだった。
「大丈夫?」
「ッ!誰ッ!?」
そ、そんな引かなくても…
それにしても綺麗な子だな。
同い年ぐらいかな?
「え、えっと、今植物を操ってる人物です」
「…何が望みなの」
そう言うと少女はさらに視線を鋭くして俺を睨む。
「いや、襲われているようだから助けようかと思って…」
すると少女は幾分か、睨んでいた瞳を和らげ今度は疑わしげな視線を送ってきた…
俺ってそんなに信用出来ない様な顔してんのかな…
「お、おい、てめぇら!さっさと俺を離しやがれ!俺は洛陽の正規軍、刺姦督の咬犬だぞ!」
そんなことをやっていると、レイプ魔の男の方も混乱が薄れてきたのかそんなことを言い出した。
え、何コイツ、正規軍の役職持ちだったの?しかも刺姦督って確か、盗賊の取り締まりとか、刑法犯の処罰を担当してる警察みたいな役職じゃなかったっけか?こんなのが法の番人とか、洛陽どうなってんだよ。
…よし、俺の事見られたし、きっと報復とかそんなこと考えるようなヤツだろうから殺しちゃお♪
「≪大地は沼の様にこの男を飲み込む≫、うえ、さっきより頭痛が強烈。木よ、放せ」
すると今度はさっきまで男を縛り上げていたのが嘘のように、木がパッと男を放る。
頭から落ちた男は、悲鳴を上げることも出来ず頭を抜こうともがいていたがゆっくりと力が抜けていき地面に飲み込まれていった。
「こんなもんかな?ま、女性がいる前で流血沙汰は無いよな」
「…」
残されたのは恐怖で黙る少女と、人1人を綺麗に消しておいてどうでもいいかの様な少年だけだった。
オリキャラ解説
咬犬
名前の由来――咬ませ犬
その名の通り咬ませ犬なひと。
洛陽の正規軍に入ったのが最近の自慢。
今回の事件と似たようなことは過去に何度もあったようだ。
しかしながら、名前のせいなのか毎回何者かが彼を倒し女性を救っている。
尚、事件とは何の関係も無いが彼は童貞だった模様…
何故このような犯行に及んだかは不明。
彼は、高凌の手で地面に沈んでしまったため、真相は闇の中ならぬ地面の中である。
享年29歳