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KURO~気まぐれネコは事件と遊ぶ~  作者: 天笠恭介
第二章 ネコ《少女》はネズミの巣を捜す
6/18

その1



 次の日の朝六時ちょっと過ぎ。僕は新聞部の部室にいた。そして、


「シロ君はコーヒーの方がよかったかしら? でも、今は紅茶しかありませんの。アールグレイで手を打ってくれませんこと?」


 目の前にはティーカップを差し出す静先輩がいる。

 何でだろう。何で僕はこんなに朝早くからこんな所にいるのだろう。眠い。すごく眠い。


「夜更かしをなさるからですわ。早寝早起きが人としての基本ですわよ?」

「そーですねー」


 生返事くらいしか返せない。今日だってまさか五時に着信で叩き起こされるとは思わなかった。洗濯物は干してきたが、朝食と弁当を用意する時間が取れなかったので、今日は朝も昼も外食になってしまう。


 クロは朝からどこかへ出かけてしまったようで、僕が起きた時には寝床である今のソファーの上にはいなかった。ふらっといなくなるのはいつもの事なので、まああまり心配はしていない。


 ボーっとそんな事を考えているうちに、静先輩のティータイムが終わったようで、


「さて、朝早くに来てもらったのは他でもありませんわ。昨日伝えておいた通り、ある程度情報がまとまりましたの。その報告ですわ」


 ティーカップを机の上のソーサーに置きながら、静先輩はそんな話を切り出した。そうしてすくっと立ち上がり、先輩はきゅるきゅると音を立ててホワイトボードを引っ張ってくる。

 それを僕の真正面にそれを配置すると、置いてあった茶封筒から数枚の写真を取り出してマグネットで貼り付けていく。

 その数、七枚。女性六人と男性一人。結構な数だが、三枚ほど顔を知っているものが混じっていた。


 静先輩はそのうちの一枚。童顔な少女の写真だけ左の方へよけて貼り付け、残りの六枚を右の方で組織図のような配列で貼り付けた。一番上に位置するのは、唯一の男性の写真だ。


「さて、準備はこんなところですわね」


 静先輩はさらりと写真の貼り付けられたホワイトボードを確認すると、僕の方へと向き直った。


「昨日と重複するものもありますけれど、確認の意味でも詳しく説明していきますわ」


 シャキン、といつの間にか取り出していた指示棒を伸ばし、静先輩が童顔の少女の写真を示す。


「まずは今回の事件の目撃者ですわね。名前は平野明海。一‐A在籍で、陸上部に所属してますわ」


 知っている顔一枚目。昨日事情聴取を受けていたクラスメイトだ。


「そういえば他に目撃者はいないんですよね?」

「ええ。屋上から転落する瞬間を見たのは、この平野明海だけですわ。他の方は全員、落ちた音しか聞いていないそうですの」


 結局目撃者はただ一人。彼女の見たものに関してはすでに昨日の段階で把握済みなため、彼女に関してはこれ以上何を話す事もないはずだ。

 静先輩も当然そう思っているのだろう。平野明海についてはそれ以上述べず、ボードの右側に貼り付けた六枚の写真の方へ顔を向ける。


「次に今回の事件の被害者、奥山宏美がこの方ですわ」


 僕は静先輩の指示棒が示す写真を注視する。これといって特徴はない、何処にでもいそうな女の子だ。写真の中の彼女はなんとなく睨んでいるようでちょっと怖い。


「それで、この方の事を調べていたら興味深い事が判明しましたわ」

「興味深い事? なんですかそれ?」


 眠気がぶり返してきた頭を少しでもすっきりさせるため、僕は先輩に入れてもらった紅茶をすすりながら問い返した。


「この方はとある教師と淫行関係にありましたの」

「ぐっ! げほっ! げほっ!」


 あまりにストレートな物言いに、僕は口に含んでいた紅茶を気管支に入れてしまい激しく咳き込んだ。しかし静先輩はそんな僕を特に心配する事も無く、


「そして彼女と淫行関係にあったのが、この天夜彰吾あまやしょうごですわね」


 指示棒が示すのは、一人だけ上に貼られた男性の写真。知っている顔二枚目。

 二年生と僕たち一年生の数学の授業を担当しており、教え方も悪くない上に見た目がいいとかで女子からの人気は高い。

 それに比例してなのか、男子からの人気はそれほどでもなかったと記憶している。


「あ、そうですわ。ちなみに、この天夜先生と奥山宏美の交際関係はプラトニックなものではなくもっと肉体的で肉欲的な、いわゆるセック――」

「げほっ。あ、その辺は察しがつくので飛ばしてください」

「………………。つまりお二方は性こ――」

「静先輩、何でそこまでして言及したいんですか?」


 僕としては朝から静先輩とエロトークなんて疲れる事をしたくはない。ただでさえ起き抜けの体は反応しやすいのだ。それをネタにいじられるのは死んでも御免だった。


「んもう。シロ君は潔癖すぎませんこと? 人気のない朝の学校で美人の先輩と二人っきりなんて夢のような状況ですのに。健全な男の子に宿るリビドーのままに、目の前の果実を貪りたいとは思いませんの?」


 静先輩が唇を尖らせる。

 ああ、フグみたいに頬膨らませても無駄ですよ。可愛いですけど。


「って、何でスカートをゆっくりたくし上げてるんですか!?」

「あら、見せて魅せるために決まってますわ」

「……いいから話を先に進めてください。朝の時間も無限じゃないんですから」

「それもそうですわね」


 比較的あっさりと、静先輩はスカートから手を離し、艶かしくあらわになっていた太ももが布の向こうに消える。

 やれやれと、僕がちょっと気を抜いた瞬間、


「今日は黒のレースですわ。上下とも」


 図ったかのように静先輩がそう言った。

 僕の中で、血が滾る。

 瞬時にその形を想像してしまった自分が恨めしい。直前の張りのある太ももの映像とかけ合わさって、僕の体、主に下半身に血が巡ってしまう事を止められない。

 が、うつむきつつどうにか惨事になる前にそれを鎮め、僕は小さく息を吐き出した。


 そうしてようやく安堵の息を吐き出したところでふと視線を感じて顔を上げれば、なぜかデジタルカメラを片手に持つ静先輩に出会った。


「あの、静先輩?」

「なんですの?」

「何、してるんですか?」

「私のシロ君コレクションに追加する動画を撮ってますわ」

「ああ、そうですか」


 誰かこの先輩をどうにかして欲しい。切実に。


「まあ、冗談は本当にここまでにしておきますわ。ともかく、この天夜先生は生徒に劣情を抱いていたようですわね」


 まるで何事もなかったかのように説明の続きを始める静先輩にげんなりしつつ、僕は天夜先生の写真の下に貼られた、奥山宏美以外の四名の写真へ視線を移す。

 説明されるまでも無く、彼女たちが天夜先生とどういう関係にあるのかは想像がついた。


「天夜先生と今現在も付き合いのある方ですけど、まずはこの方ですわね」


 示されたのは、大きな眼鏡におさげ髪の、やや伏目がちの少女だ。多分、一般的に地味と言われそうな感じの子だった。


「名前は金井昌子かないしょうこ。一‐Cに在籍しておりますわ。部活動はやっていないようですけど、放課後は図書室で司書教諭の仕事を手伝っているようですわね」


 文学少女というやつだろうか。プロフィールを聞く限り、学校の先生とそういった関係になる事に抵抗感を示しそうな感じに思える。


「人は見かけにはよりませんわよ? こういった純情そうな方でも、何の拍子にどうなるかなんて分りませんもの」


 言われてみればそれもそうだった。よく考えて見れば、僕の目の前にいる人も初見でその性格を見抜ける人はまずいないだろう。黙っていれば文句なく美人だと思うのだけど。スタイルもいいし。

 そんな事を言うと、静先輩はアヒルのように口を尖らせ、


「別に、私もだれかれ構わず自分をさらけ出したりはしませんわよ?」


 左様で。


「……まあ、いいですわ。この金井昌子なのですけれど、一週間ほど前に奥山宏美と言い合いをしているところを数名の生徒に目撃されていますの」


 やや不機嫌そうに静先輩は説明を続けていく。


「この言い合いの結果、奥山宏美が金井昌子を怒鳴りつけて泣かせたという事らしいですわ」


 それはありえる話だと思った。金井昌子はおそらくそれほど気の強い性格をしてはいないだろう。写真の印象で語るのもあれだが、奥山宏美に対すれば萎縮してしまう可能性は高いと思われる。


「その会話の内容は分かるんですか?」


 僕の問いに、静先輩は首を横に振った。


「会話の内容は直接本人に聞いてみるしかありませんわ」

「そうですか」


 会話の内容はおそらく男関係の揉め事だろう。遊び人である男に入れ込んだ一人の女子生徒の暴走。昼ドラ辺りで題材に出来そうなドロドロな展開が目に浮かぶ。


「それとこの方の事件当日のアリバイですけれど、ご近所の方の証言によれば事件当日の朝はずいぶんと早く、朝の五時半には家を出たそうですわ。それ以降の八時半に登校するまで何処で何をしていたのか、本人だけが知っていますわ」


 犯行時刻と思われる時間にアリバイなし。なおかつその日に限って朝早くに出かけているとなると、ちょっと怪しいと言わざるを得ない。

 話を聞く時は慎重に尋ねた方が良さそうだ。


「金井昌子の件はここまでとして、次は向坂絵梨さきさかえりですわね」


 静先輩が次に示した写真。そこには染めたと思われる茶髪に派手な化粧を施した、いわゆるギャル系の女子生徒が写っている。

 宗也が好ましくないといっていた部類の人だ。彼の趣味に照らせば先の金井昌子の方が守備範囲だろう。


「在籍は三‐B。あまり良い噂を聞かない方ですわ」

「と言うと?」

「飲酒喫煙を始め、万引きやら夜間徘徊やら援助交際やらと、おおよそ学校が素行不良認定するに躊躇いのない事柄がオンパレードですの」


 もはやさして珍しくもないと言ってしまえるほどに聞き慣れてしまった言葉の数々。僕としては出来る限り関わりたくないタイプの人だ。


 しかし、天夜先生の女性の趣味がまるで分からない。奥山宏美と金井昌子と向坂絵梨。三名の共通点なんて高校生というくらいではないだろうか。


「女子高生の制服が好きなようですわよ?」

「今すぐクビにした方がいいんじゃないですか? 実害出てますし」


 頭が痛い。制服が好きだから高校教師になるなんて作り話だとばかり思っていた。


「近年のニュースを見る限り、特に珍しくもありませんわ。それよりもこの方のケースですと、逆に奥山宏美に言い勝ったようですわね」


 向坂絵梨と奥山宏美の会話については断片的に証言があるようで、基本的には奥山宏美が一方的に罵りの言葉を口にし、その間向坂絵梨は何処吹く風で聞き流していたようだ。

 業を煮やした奥山宏美が平手を一発かまして、けれど向坂絵梨はやり返すでもなくただ鼻で笑ってその場を後にしたらしい。

 素行はともかく、結構格好いい性格をしているようだ。


「いろいろ問題のある方ですけれど、女子生徒の人気は高いですわね。昨年度のバレンタインデーでは二十個近いチョコをもらってましたわ」

「うちのクラスの男子が聞いたら泣き出しそうですね。って、ああそういえば三‐Bってことは先輩のクラスメイトですか」

「ええ。最近になってからのちょっとした交流程度しかありませんけれど」


 それはどこか含みのある言い方だった。けれどそれに疑問を挟む前に静先輩が次の説明を始めてしまったので、僕は黙って話しに耳を傾ける。


「この方も犯行時刻にアリバイはありませんわ。お家の方はシロ君のお家と同じくめったに帰っては来ないそうですから」


 証言を期待出来るとすれば交友関係の中という事になるが、これに関しては静先輩が調べた上での結論だろう。

 それにしても、昨日の今日でどうやってここまで情報を集めたのだろうか。


「昨今の情報社会では、言葉通り噂は千里を走りますのよ?」


 先輩がちらりとスクリーンセーバーのかかったパソコンへ顔を向ける。

 なるほど。文明の利器は使える人が使えばとんでもない実力を発揮出来るらしい。


「さて、関係のある生徒としてはこの方で最後ですわ」


 指示棒で示される写真には、釣り目気味で勝気そうなセミロングの少女が写っている。


「名前は飯島詩織いいじましおり。二‐A在籍ですわ。ただ、この方は少々特殊ですわね」

「何がですか?」

「彼女は先の三人と違って、天夜先生と肉体関係にはありませんわ。ずっと言い寄られ続けてはいたようですけれど。奥山宏美に問われた時も、断固として否定したそうですわ」


 写真から受けた第一印象はあながち間違ってはいなさそうだ。しかし、断固として否定した部分が引っかかる。それでは言外に何かありましたと言っているように捉えられなくもない。


「ちょっと引っかかりますね」

「そうですわね。でも、この方にはアリバイがありますの」

「え? そうなんですか?」


 僕の言葉に先輩はこくりと頷く。


「奥山宏美の落下が目撃された時間に、この方は学校近くのコンビニで雑誌を立ち読みしている姿が目撃されていますわ。そのまま雑誌をお買いになったみたいですし、問題の時間に学校外にいらっしゃったのはほぼ確実ですわね」


 状況的に見て完璧に近いアリバイだった。これだったら今回の調査から外してしまってもいいように思える。


「それはそうなのですけれど、何か引っかかりりますの」

「まあ、気にはなりますけれど」


 多少でも疑わしければ調べて損はない、か。

 思いの外関係者が多い。調べるのは一苦労だろうが、この短時間でここまで調べ上げた静先輩ならあと数日あれば全部調べきれるんじゃないだろうか。

 僕の出る幕あるのかこれ?


「私もそう暇ではありませんのよ? 今は別の案件も抱えてますの。私が手助けするのはここまでになりますわ」

「ああ。また例の叔父さん絡みですか?」

「違いますわ。もっと個人的なものですの」


 先輩はそっと人差し指を唇に当て、その中身が内密的なものである事を僕に示して来た。先輩がこういう態度を取る時は聞いても絶対に教えてはくれないので、僕はそうですかと流して深くは追求しなかった。


「そんな事よりも、もうそろそろ時間もありませんわ。最後の一人の説明をしますわよ」


 静先輩の指示棒が示す最後の一枚に写る人物。

 それは僕の知っている顔三枚目。体育教諭の春霞八重はるがすみやえ先生だった。

 正直、ホワイトボードに貼られた写真の中でこの人が一番気になった。明らかに一人だけ立場が違うからだ。


「何でここで春霞先生が出てくるんですか?」

「関係者だからに決まっていますわ。意外と知られていないみたいですけれど、春霞先生は天夜先生の婚約者ですのよ?」

「はい?」


 初耳だった。意外と知られていないというか、多分ほとんどの人が知らないと思う。


「本人同士というよりは、お二方のお家関係の間柄のようですわね」

「え? 春霞先生と天夜先生って、良家か何かの出なんですか?」

「そうですわね。そのようなものですわ」


 珍しく静先輩の歯切れが悪い。軽く唇を噛むその仕草は、前に先輩の家について尋ねた時にも見られたものだ。

 この話はあまり触れない方が賢明だろう。


「なるほど。それで、先生のアリバイはあるんですか?」

「ありますわ。春霞先生は直接の目撃者ではありませんけど、直前に目撃者の平野明海と会話をしていましたの」


 目撃者と直前まで会話をしていたという事は、その時刻に先生もグラウンドにいたという事だ。

 しかし、昨日柔道部に朝練習は無かったはずである。練習があれば宗也が出ないはずはないからだ。

 では、何で先生はそんな時間に学校にいたのだろうか。


「春霞先生は今宿直の当番をやっていますの。確か今日までのちょうど一週間のはずですわ」

「へえ。だとすると、見回りとかで朝とかに校舎の中を点検するはずですよね? って、今日は大丈夫なんですか?」

「先ほど終わっていますから大丈夫ですわ。それと、昨日もこのくらい、六時頃過ぎに見回りを行ったようですわね」


 六時頃となると、静先輩もまだ来てはいない時間だ。


「という事は、その見回りで春霞先生が鍵を開けた隙に、犯人と奥山宏美は校舎内に侵入したと見るべきですか?」


 タイミング的にはここしかないはずだ。静先輩のように合鍵でも持っていれば話は別だが。


「その通りですわ」

「ですよね。でもそうす――えっと、どっちがその通りなんですか?」


 一瞬流しかけて、僕は思わず聞き返した。


「奥山宏美は学校の合鍵を持っていたんですの」

「え?」


 驚く僕に構わず、静先輩はまたいつの間にか写真を一枚取り出していた。それをホワイトボードに貼るのではなく、僕に差し出してくる。

 受け取った写真には一本の鍵と、それに付けられているデフォルメされたネコのキーホルダーが写っていた。

 その鍵とキーホルダーに、僕は既視感を覚える。


「これ、先輩が持っているマスターキーじゃないですか? 確かあれにも猫のキーホルダーつけてましたよね」

「違いますわよ。私のはほら、これですもの」


 そう言って静先輩が取り出したのは写真と全く同じ形の鍵と、デフォルメされた()()のキーホルダー。

 対して写真に写っているのは、デフォルメされた()()()()()()()のキーホルダーだった。

 キーホルダーの形は全く同じだが、その色が異なる。けれど、何故同じ型のキーホルダーが付けられているのだろう。


「天夜先生が女の子に配っているからですわ」

「……なるほど」


 何というか、本当にあの数学教師は何を考えているのだろう。


「目をつけた方にプレゼントして、それを使用している子に言い寄っていくようですわね。一種のバロメーターとでも申しましょうか」

「もしかして先輩のそれも天夜先生にもらったんですか?」

「違いますわ。確かに私も押し付けられはしましたけど、これはもらう前から自分で買った物を使っていたんですの。もらった物は捨ててしまいましたわ」


 普通に既製品のようだった。もしも特別なものなら何かしら手掛かりになったのかもしれないのだけれど。


「元々は携帯に取り付けていたんですけれど、勘違いした天夜先生が声をかけてくるのが億劫になってしまって、こちらに取り付けているだけですわ」


 よりにもよって同じ色を渡されてしまいましたから、と溜息交じりに静先輩がその時の事を語る。


 それはさて置き、つまるところ奥山宏美は事件当日の昨日、宿直の春霞先生の目をごまかせればいくらでも学校の中に入る事が出来たという事になったわけだ。

 そうなると、この鍵の出所が問題になる。


「見当もつきませんわめ。奥山宏美が私みたいに鍵の型取り用の粘土を持ち歩いているとも思えませんし」


 さらりとポケットから四角い箱のような物を取り出した静先輩が問題発言をする。

 ああ、そのプラスチックケースみたいなものの中身はそういう用途の粘土なんですね。


「新聞部としてのたしなみですわよ?」

「断じてそんな事はないと思います」


 本鍵の場所は十中八九職員室だが、生徒は簡単に立ち入る事は出来ないし、そもそも鍵に直接触れるのは借りに行った時くらいなものだ。

 生徒が学校のマスターキーを借りれるはずもないのだから、それこそ何らかの隙をみて型を取りでもしない限り複製品を手に入れるのは難しい。

 教員の協力があれば別だが、さすがに天夜先生でもそんな事までするとは思えなかった。


「そうですわね。この鍵の出所はかなり重要な部分になると思いますわ」


 静先輩がそう締めたところで、ふと部室の時計を確認する。現在時刻は七時半を回ったところだった。

 結構長々と会話していたらしい。


「現状分っているのはここまでですわ。後は、シロ君にお任せいたしますわね」

「さしあたって全員に話を聞いてみるところからですかね」


 静先輩によって相当量の下調べは終わっているものの、各自への個別調査はこれから始めなければならない。

 長い一日になりそうだった。



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