2.ジス
「はいぃっ!!?」
思わず、自分の名前でもないのに返事をしてしまった。
心臓がちょっと口から顔を出したんじゃないかってくらい、驚いたもんだから…思わず。
「まったくお前は、どれだけ心配したと―――」
言いかけた言葉が、ぱちりと目があった事で止まる。
「あ、あれ?もしも~し?」
ルティと目が合ったまま、固まって動かなくなってしまった男の前でひらひらと手を振って見せる。…と、遅ればせながらも反応があった。
「君は…だれ?なぜここに…?」
―――え、それはむしろこっちのセリフ…。
なんで、人間がこんな時間にこんな所にいるのか。
ルティはちょっと躊躇ってから、渋々名乗った。
「私はルティ。この森に住んでる木こり夫婦の娘よ」
「まさか…。この森に人が住んでるなんて、初めて聞いた」
―――人じゃないけどね。
ま、都合よく勘違いしてくれるならいっか。
根が楽天的で好奇心旺盛なルティは、相手の勘違いをいいことに両親からの言いつけもどこへやら。父さんと母さん以外の人間を見るというのも初めてで、興味十分、思わずまじまじと観察してしまう。
父さんより細身で母さんよりも上背があるのに、頼りないとか貧弱そうなイメージは無い。
色は暗くてよくわからないけれど、真っ直ぐに向けられた瞳の深さと大きさに思わず見入ってしまいそうだ。
「ねぇ、あなたは?あなたはだぁれ?
こんな時間に森に入ってくる人だってはじめてよ」
ぐい、と詰め寄るようにして疑問をぶつけたルティに、男は困ったように頬を掻きながら口を開いた。
「俺は麓の村に住むジス。
実は妹が森に入り込んだみたいで探してたんだ」
そういえば、先程誰かと勘違いされたっけ。
「アリア?」
ルティが首を傾げながら問うと、ジスは溜息を一つついて頷いた。
「そう。歳は十二で君と同じくらいかな。肩ほどまでの栗色の髪と淡い山吹色の目をしてる」
「ん…?
ちょっ、私、十二じゃないわよぉ!?来月で十六になるんだから」
とてもじゃないけど聞き捨てならないセリフにむっと反論すると、ジスは本気で驚いた顔をした。
―――なんて失礼なヤツ!
「十六…?まさか…だって、俺とそう変わらないのか?」
…確かにルティはチビだけど。
童顔だけど。発育不良気味のどこもかしこも平坦な体してるけどっ。
“信じられない”とまんまジスの顔に書かれてあって、ルティはいささか落ち込んだ。
「ごめん、気を悪くしたのなら謝る」
ルティのふくれっツラに気付いてようやく自らの失言に気付いたらしいジスが慌てたようにそう言って、申し訳なさ気にぽりぽりと頭を掻いた。
「…まぁいいわ。困ってるみたいだし、私も探すの手伝ってあげる」
本当は人間に近づくことは禁じられているのだけれど。
今夜ルティが外に出たことは誰も知らない。ちょっとした秘密の冒険に、ルティは心を躍らせた。




