1.ルティ
綺麗に半分に割れた月が、淡く光ってとても美しかったから。
空を覆った雲の合間から覗く星達が、爛々と輝いて闇を彩っていたから。
―――だから、ルティは外に出た。
父と母から、半月の夜に外に出てはならないと厳命されていたのだけれど。
「―――ちょっとだけ。ちょっと散歩するだけよ」
るんるんと足取りも軽く、誰にともなくそんな言い訳をする。だってこんなに綺麗な月夜なのだ。大人しくしていろと言うのが無理な話。
手近なムクの木を見つけて、誰の目も無いのをいいことに、ルティは夜着のドレスのままその太い枝へよじ登る。
木登りは得意なのだ。
月明かりを受けて、ルティの体もきらきらと光を帯びていた。
木に登ったおかげで、また少し月との距離が縮まる。
全身に受ける柔らかな光が心地よくて、ずっとこうしていたらルティ自身、月明かりの一部になれる気がした。
―――戻りたい。
そんな思いが、胸にあふれる。戻りたい。柔らかな光の溢れる、あの場所へ。
ルティはさらに近づこうと枝の上で立ち上がり、手を伸ばす。
―――あと少し、あと少しで…。
届きそうになる。体が、さっきよりずっと強く輝く。
がさっ!
突然木の下から聞こえた物音。その音に、恍惚としていたルティはいきなり現実に引き戻されて思いっきり驚いた。
驚きすぎて、体を支えていた手と足を滑らせてしまい、グラリとバランスを崩す。
「ふわっ、あ、きゃっ…うわあぁぁっ!」
何とか踏ん張ろうという無駄な努力の甲斐も無く、ルティは木の上から真っ逆さまに落ちた。
どすん、と鈍い振動が辺りを揺るがす。思いのほか、衝撃は少なかった。
「ぐぅ…」
…。
蛙でも押し潰したような、奇妙なしゃがれ声。
―――しかも、ルティの下から…。
恐る恐る足元に目をやると、ルティの足の下には大の字になって伸びた…人間。
「ふぁっ…きゃあああぁっ!」
慌ててその場から飛び退き、後ずさる。
倒れた人影はピクリとも動かなかった。
「ど、ど、どーしよう!?やだっ、よりにもよって人間に…!」
絶対に見つかってはいけないと、父と母に口をすっぱくして言われていた。捕まったら、見世物にされて、殺されてしまう。
おたおたとパニック状態に陥りかけたルティだったが、全く動く気配の無い人間に、先程までと別の焦りを感じてサーッと青くなった。
恐る恐る、近付く。
見た目は父に似ている。…男?
「…もしもし?
………生きてますかぁ?」
両手を着いて男の顔を覗き込んだルティの右手が、いきなりがしっと掴まれる。
「―――!?」
気絶しているものだとばかり思い込んでいたルティは、それこそ心臓が止まるくらい驚いた。
「やっと見つけた…アリア!」




