中学校~ミニ体育祭前~
翌日も、翌翌日も、やはり山田先生は休んでいた。
俺は、いつものように喧騒に包まれた教室に向かう。
そして、校長先生がいつも来る時間から二十分ほど過ぎたとき。
不安の波は大きくなりつつあった。
ついに、生徒たちが不安に思って見に行こうか、という女子生徒が現れたころ。
男子生徒たちが動揺を隠しきれなくなってきた。
突然、その不審者は訪れた。
いつものように喧騒に包まれていた1-A組が、一瞬で静寂に包まれる。
だれかがつばを、ごくん、と飲む音がやけに響いた。
誰もが、言葉を失い、恐怖で足は震えていた。
ただ、ひかるは違った。
冷静に、狂気に満ち溢れた瞳を観察していた。
手には、ナイフがあった。
(ふむ。ここは一階。一応、フェンスを登れば侵入は可能だろう。)
ただ、なにかが、おかしかった。
ひかるの頭はフル回転し、問題を見つけ出そうとする。
そして、その男が目を血走らせ、飛びかかってきたとき、違和感に気づいた。
・ナイフを持った男が、誰にも追放されずにきたこと
これは、誰かが叫んでいない点でも、辻褄が合う。そして、フェンスを乗り越える姿は少なからず目立つはずだ。もしかしたら警察を呼んでいるかもしれないが、外で何も聞こえてこないため可能性は低い。また、監視カメラなどで、見つけたら放送がかかるはずだ。
・一直線にここへ来て、ちょうど校長先生がいないこと。また、担任も今日休んでいること。
まるで、示し合わされたかのように、校長先生が遅れていた。また、担任が休んでいる。
この二つが、明らかな異常だ。
これは、計画性のある事件だ。
ものすごい勢いで回転する頭はそう結論付け、その男の対処をどうするかに思考は移っていった。
教室は、阿鼻叫喚の地となっていた。
「逃げろおおおおおおお。」「俺が先だあああああああ。」「きゃああああああああああ!」「押すなあああああああああ」
扉は乱雑に開けられ、廊下を全力で走って生徒たちがにげていく。
「くそっ。先生がいないのはなぜなんだ。」
あ、そういえばゲームしてたからだ。
小声でぼやきながら、俺はナイフ持ちにはかなわないと思い、最後でいいから、と逃げ出す。
ただ、その男は、まるで示し合わせたかのように、一直線に俺に向かってきた。
生徒がまだ教室に残っているのをみて、掃除のロッカーに駆け出し、乱暴に開けてモップを取り出す。
(くっ。やはり筋力が明らかに足りないっ。)
そして、狂気的に刃物を突き出してくる男に、モップを合わせる。
ガンっ、という重低音が響く。
「くっ。」
手元のモップは、へし折られていた。
流石に俺は空手や合気道のプロじゃない。
前世の頭をもっても、生身で刃物持ちの男には勝てない。それも、体格的にも大きな差がある。
そう判断した俺は、すぐさま逃げることにした。
俺は、へし折られたモップの片方を投げつけ、出口に一目散にはしっていく。
教室には、まだ三分の一ほどの生徒がごたついていた。
扉で、我先にと押し合い、へし合い、かえって遅くなっていた。
(何をやっているんだよっ)
心の中でイラつきながら、どうにか男を止める手段を探す。
ただ、俺の予想以上に、その男は早かった。
(なっ。そんな速いのか。体格的にそんな速くないと思ったんだがっ。)
俺は、すぐさま向かってくる男と向き合い、致命傷を避けるようにして、刺されたナイフを抜いて逆に突き刺す戦法に切り替える。
そして、俺は痛みを覚悟して、右に飛ぶ。
ただ、男の目は狂気的なことから想像がつかないほど俺を観察しており、
ナイフは俺の胸に吸い込まれていった。
かに見えた。
直後、その男は俺の視界の左側に倒れるように、転んでいった。




