プロレスにVARが導入されても、プロレスはプロレスだったⅡ 【リベンジマッチ】
前作が、2025年12月21日瞬間風速的に、文芸 アクション部門日間2位を記録しました。
この場をお借りし、厚く御礼申し上げます。
フラッシュの嵐の中、ヒールユニット「憎悪の館」の首領、ONITSURAが不敵に笑う。
対面に座るのは、白いマスクと全身白のコスチュームに身を包んだ「ホワイトナイト」。
ONITSURAはマイクを弄びながら、低い声で言った。
「地方会場でコソコソと俺の部下を狩ってるのはテメェか。ヒールマスターの俺にはお見通しなんだよ。……おい、お前、白馬だろ?」
会場がざわつく。
「ホワイトナイト相手ならノンタイトル戦だ。だが、白馬桜士なら……ダブルタイトルマッチで受けてやってもいいぜ?」
ホワイトナイトがゆっくりと立ち上がる。その手がマスクの紐にかかった。
一気にマスクを引き剥がすと、そこには精悍さを増し、殺気立った白馬桜士の素顔があった。
「帝都武道館メインイベント変更だ、スットコドッコイ!!
ONITSURA対白馬桜士! もちろん、ダブルタイトルマッチだ!!」
マイクを叩きつけた白馬の瞳には、かつての爽やかさは微塵もない。あるのは、獲物を狩る獣の光だけだった。
超満員の帝都武道館。
ゴングが鳴った瞬間、前回とは違う「重力」がリングを支配した。
ONITSURAは、白馬の最大の武器である「跳躍」を殺しにかかった。
ロックアップから強引に押し込み、白馬の左膝にブーツの底を押し付ける。
グリグリグリ……ッ。
硬質のソールが、皿を削る嫌な音が響く。
「飛んでみろよ! ほら!」
ONITSURAはパワーボムの体勢から、そのまま膝をコーナーの鉄柱に叩きつけるニークラッシャー。
ガォン!!
鉄と骨がぶつかる硬い音。白馬の顔が歪む。
さらにサミングで視界を奪い、ロープ際では喉元を踏みつける。
レフリー・和日涼平が厳しくチェックするが、ONITSURAは離れ際に白馬の顔面をかきむしる。
苦悶する白馬。
バックドロップ、ラリアット。重量級の技が次々と白馬を襲う。
和日レフリーのカウントは高速だ。
ワン! ツー! ……2.9!
ギリギリで肩を上げる白馬。
武道館の観客は、そのたびに床を踏み鳴らす。
試合時間10分。
ONITSURAがトドメのラリアットを狙ってロープに飛ぶ。
そのカウンター。白馬が低い姿勢から弾丸のように突き刺さるスピアー。
ドグゥッ!!
鳩尾に直撃。巨体がくの字に折れる。
白馬は叫び声を上げ、倒れたONITSURAの足首を捕獲。アンクルホールド。
前回の悪夢がよぎる。
ONITSURAがロープへ這おうとするが、白馬は逃がさない。
その時、リングサイドから巨漢・ザウルスがエプロンに上がり、白馬の背中を強打。
体勢が崩れる。
「またか!」と観客が叫ぶ中、ONITSURAと白馬がリング中央で対峙する。
ここから、意地の張り合いが始まった。
バシィッ!!
白馬の逆水平チョップ。
ドスゥッ!!
ONITSURAの逆水平チョップ。
「まだまだ! さぁこい!」
白馬が胸を突き出し挑発する。
ONITSURAがニヤリと笑い、拳を握った。
ゴツンッ!
鈍い音。プロレスの禁じ手、ナックルパートが白馬の顎を打ち抜いた。
白馬がよろめく。
しかし、倒れない。
うつむいた白馬が顔を上げた時、その目は「キラーモード」へと変貌していた。
バババババッ!!
目にも止まらぬ速さのローキック連打。ONITSURAの太腿が悲鳴を上げる。
さらに、右、左、右、左!
掌底に近い、骨を響かせるようなビンタの乱れ打ち。
ONITSURAの動きが完全に止まった。
白馬は間髪入れず、ギロチンチョークへ。
太い首に腕が食い込み、頸動脈を絞め上げる。落ちるか!?
「グググ……ッ!」
ONITSURAの目が白黒する。
たまらず、セコンドのザウルスがリングイン。160kgの巨体が蒸気機関車のように迫る。
視界の端でそれを捉えた白馬。
フロントチョークをパッと解き、バックステップ。
前のめりに倒れ込むONITSURAの背中に、なんと「タンッ!」と飛び乗った。
踏み台になったONITSURAの背から跳躍し、迫りくるザウルスの顔面に膝を叩き込む。
シャイニング・ウィザード一閃!!
パァァン!!
乾いた破裂音と共に、ザウルスの巨体が揺らぐ。
だが、白馬は止まらない。
よろめくザウルスをボディスラムの体勢で抱え上げた。
「うおおおおおッ!!」
95kgの身体が、160kgを引き抜く。筋肉断裂の音が聞こえそうなほどの膂力。
ズドォォォォン!!!
武道館が揺れた。
なんと白馬は、ザウルスを倒れているONITSURAの上に投げ捨てたのだ。
人間山脈が出来上がる。
「いけぇぇぇーーッ!!」
狂乱の武道館。
白馬はトップロープへ駆け上がる。躊躇なく空へ舞う。
シューティングスタープレス!
煌めく流星が、重なった二人の巨体の上に降り注ぐ。
ドッゴォォン!!
二人まとめて圧殺。
白馬は虫を払うようにザウルスを蹴り落とし、再びトップロープへ向かう。
トドメの一撃を放つために。
その時だ。
エプロンサイドに、妖艶な影。マネージャーのDIVAだ。
彼女は口を大きく膨らませている。毒霧の準備だ。
白馬がコーナーに立った瞬間、DIVAがその顔を目掛けて霧を吹こうとした。
「甘いッ!!」
その刹那。
白馬の両手が、DIVAの美しい顔をガシッと鷲掴みにした。
噴射される寸前、白馬は強引に自分の唇をDIVAの唇に押し付けた。
ムギュッ。
会場から「キャーッ!」という黄色い悲鳴と、「うおおお!」というどよめきが交差する。
行き場を失った毒霧が、口移しのように白馬の口内へ逆流する。
数秒の口づけの後、白馬はDIVAを突き放す。
呆然とするDIVA。
白馬はニヤリと笑うと、口元を拭わずに、毒霧を含んだまま天を仰いだ。
ブワッ!!
掟破りの逆グリーンミスト!!
緑色の霧が、DIVAの顔面を染め上げる。
DIVAは悲鳴を上げて顔を覆い、場外へ転落。
邪魔者は消えた。
リング中央、ようやく立ち上がろうとするONITSURA。
白馬はコーナー最上段で一瞬だけポーズを決め、再び宙を舞った。
正調、完璧な放物線を描くシューティングスタープレス。
ズダァァァン!!
ONITSURAの腹部に、全体重と回転力が突き刺さる。
もはや返す力は残っていない。
和日レフリーの手がマットを叩く。
ワン……(静寂)
ツー……(祈り)
スリー!!!(爆発)
カンカンカンカン!!!
武道館の天井を突き破るような大歓声。
白馬桜士、王座奪還。
そして、VARというシステムすら超えた、肉体と感情の完全なるリベンジ。
リング上、緑色に染まった口元を拭いながら、白馬は二本のベルトを高々と掲げた。
その姿は、機械仕掛けの正義よりも遥かに雄弁に、プロレスの凄みを物語っていた。
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