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聞いてください、お兄様


「お兄様、大変申し上げにくいのですが、さすがにこれをもって旦那様の不正を疑うのは無理がないでしょうか」


「なんだと!」

 まさか、愛する従妹の私から反論されると思っていなかったのだろう、ケビンの目がこぼれるほど大きく見開かれた。

「第一に、領官が臨時で税を徴収する時は必ず署名と捺印が載った文書で通知されます。村側で不満があった場合に公爵に上訴できるようにです。それがない課税は無視すればいいだけの話です」

「ん?」

「第二に、旦那様がハルロップに着任してからまだ二週間しか経っていません。その期間で度重なる重税を課せるものでしょうか」

「んん?」

「第三に、なぜルーヘンの村にだけ重税を課したのでしょうか。これを言うのは誠に心苦しいのですが、決して潤沢とは言えない田舎の村の金庫をわざわざ旦那様が狙う理由がありません」

「んんん? 待てよ、ってことは……そういうことか!」

 ようやく合点がいったのだろうか、ケビンが大きな拳で掌を打った。


「不死王が金庫暴いて盗み取ったってことだな!」

 ああ、わかってなかった。多分、そうだろうと思っていました。

「そうする意味がないし、不可能だと言ってるんです。できるとすればそうですね、その金庫を管理している人物。旦那様に重税を課されたと一人で主張している人物が――」


「うるさいっ!」


 突然怒鳴り声を上げた男の目は、もう震えてはいなかった。一点を見つめているけれど、何も見ていない危険な目。

「動くな!」

 村長は、ケビンの腕を振り払うと意外な素早さで集会所の窓に駆け寄った。その手にはどこに隠してあったのか火の灯ったランタンが握られている。

「この集会所に爆薬を仕込んだ!」


 ――は?


「動くなよ! 動けばランタンを中にぶち込むからな」

「なっ、てめぇ!」

「爆薬だと?」

「止めろ!」

 はったりだ。周囲に衝撃が広がる中、直感的にそう確信した。集会所には村人全員が詰め込まれているはずだ。ケビンと部下も一緒にいたはずで、そんな衆人環視の中誰にも気付かれずに爆薬を仕込むなんて芸当ができるはずがない。

「馬鹿野郎! 爆薬を管理してたのは、誰だ!」

「え、ボスじゃないんですか?」

「ボスがするって言いましよ」

 なんてことだ、できるかもしれない。ここでなら奇跡的にできるのかもしれない。


「全員下がれ!」

 村長が再び叫んだ。気圧された包囲網が後退し、私もつられて後ずさる。

いや、下がっていいのか? でも、どうすればいい? 集会所の中には村人全員が集結しているはずだ。そんなところが吹っ飛んだら……だめだ、落ち着け。こんなピンチは公爵次官時代には山ほどあった。私なら一人で対処できる。私なら一人で全部――。


「……あ」


違う。もう違うんだった。

私の横には、もう。

傍らを見上げると、また青い目が私を見下ろしていた。空の入り口のような爽快な青、泣きたくなるほどの安心をくれる青。

『俺は仲間だ、俺を頼れ』

そうか、私はもうこの言葉を言えるんだ。言ってもいいんだ。

……嬉しいな。 

私は、隣でずっと私の言葉を待ってくれていたジュリアンに向かって口を開いた。 


「旦那様、助けてくださいませ」

「それでいい」


 ジュリアンの動きは速かった。

「おい、動くなって言ってるだろう」

 村長が言葉を言い終わる前に一息で距離を詰めてランタンを高く蹴り上げる。反射的に行方を追って宙を見上げてしまった村長は、もう終わりだ。

「この馬鹿野郎がぁ!」

 ずっと隙を狙っていたケビンのタックルをかわせない。まともに食らって地面に転がった。

やるじゃないか、意外な反応の速さを見せたケビンにそんな一瞥をくれたジュリアンは、落下してきたランタンをノールックでキャッチすると、


「助けたぞ」


 憎らしいほどの余裕を漂わせてこちらを振り返った。


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