9 夢と現実の逆転
現実の世界で目を覚ました曾太郎は、時計を見て驚いた。
夢の世界に居た時間が二十時間に及んでいたからだ。
今は夜中の十二時だ。起き出して、風呂に入りぼーっとする。
「こんなに長く夢の世界へ行っていたとは。ここに居る時間が段々短くなっているようだ。」
家の中は誰も使わないため何も汚れても居ない。洗濯もする必要も無いくらいだ。
腹は減っていない。
現実の世界が、返って夢の世界のような錯覚を覚えてしまう。
風呂から上がりテーブルでぼんやりとテレビを見ている内に、意識がなくなった。
「おはようソータ。随分早起きだな。」
一緒の部屋で休んでいたウエイトが起きてきた。
ソータはここに朝の四時に戻っていた。現実の世界では四時間しか居なかったことになる。睡眠をとっていないはずなのに全く疲れて居なかった。
どうなっているのだ?そう言えば、夢の世界へ来るようになってから、寝ている時間が無いような気がする。深く考えてもよく分らない。諦めて今日の討伐のことを計画しよう。
【曾太郎さんはちゃんと休んでおります。心配しないで下さい。】
テビが答えてくれたが、何時?休んでいるかは聞いても理解できない気がした。不思議世界それ事態が理解できない事なのだ。不思議な時間の流れだって、結局は不思議世界なのだから。今が良ければそれでいい。
今日はゴブリンが居るらしいと言う洞窟の探索だ。
村からは少しはなれているが、万が一ゴブリンが大きな巣を作っていれば危険だ。
これを見付けて、討伐すれば仕事は完了したことになる。
「余り大きな巣を作っていたら、其の侭にして逃げるよ。あくまで探索なんだから。」
カマラが言うことは、冒険者として当たり前のことなのだろう。ベテランの言うことをよく聞きながら、ソータ達は、洞窟がよく見える位置に隠れた。
確かにゴブリンがいる。三匹ほどでチームを組んで森へ行くのが見えた。暫くするとまた、洞窟から出てくる。
「これでは分らないね。中にどれだけ居るかは見て見ないと何とも言えない。」
カマラが困っているが、ソータは、
「他に出口があれば塞いでしまいましょう。そして燻り出せだばどうだろう。」
「もし、一杯居たらどうする?」ララが不安そうに言った。
「眠り薬があれば良いんだが。」ウエイトが言った。
この周辺には、夾竹桃が生えていた。これを燃やせば中に居るゴブリン共はふらふらになって仕舞うだろうし下手をすれば死ぬだろう。
「この植物を集めて穴の前で燃やして、毒性が強い物だから手や口に触れないようにしてくれ。こちらには来ないように風の魔法で入り口を囲ってしまう。」
ソータの意見を取り入れたカマラは早速他の出口を探したが、どうやらここが唯一の出入り口のようだ。
ソータの言った植物を皆で集めて洞窟の前に置き風上に避難する。
ソータは火魔法の槍で夾竹桃に火を点けた。そして風の結界で回りを被った。
自分たちは洞窟から離れた場所で、三時間ほどじっと観察していると、中から大きなゴブリンがふらふらになって出てきた。
「何だと!ゴブリンジェネラルまで居たのか。これは大きな群れに違いない。」
カマラが慌てだしたが、もうそのゴブリン達は戦闘能力は無くなっていた。
一度村に戻り、毒性が薄れた頃にまたここに来ることにした。
「ララ、あんた一人で冒険者ギルドに報告してきな。」
「分った。」
ララに報告して貰い、もう一度洞窟まで来てみた。
洞窟の周りには百匹ほどのゴブリン達がいて、殆ど動けなくなっていた。
ソータは風魔法で周りの空気を飛ばし、まだ生きていたゴブリン達に皆で止めを刺して廻った。
多分洞窟の中にも死んだゴブリンが沢山居るはずだが、後は冒険者ギルドの指示待ちだ。
後片付けはギルドからきた職員と他の冒険者達に任せて、ソータ達は先に帰ることになった。
後でギルド職員から、かなり大きくなった巣だと聞いた。
報奨金ははずんで貰い、皆で分け合ったのだった。
それからは彼等と正式なパーティーを組むことになった。
愉しい仲間とこれから沢山の冒険をしよう、とソータは考えた。