第7話 残念な日常もあるもので
「……うーん。可愛いですけど、プリントにすると」
「……そですか」
「けど、もったいないのでここをこうなら……」
「あぁあ……」
デザイナーとして、センスが壊滅的ではないけど……商品化にはちょい不向きが多い。あたしのデザインでも、キャラクター系のイラストにはそれが多いのだ。
今日も今日とて、営業先にアドバイスをもらっての採用とはなったけど。
「おかえりぃ、那湖ちゃんー」
そしてこっちも、お茶目さんな一旦木綿さんがぐるぐる巻きになっていた。今日は今日で、並木の幹に……ご丁寧に固結び!?
「綺洞さん、誰かに結ばれたのー?」
「いやいやぁ。自分で離れようと思ったらぁ」
「からまった……お約束ですな」
「お願いぃ」
「らじゃ」
外すのは大変だけど、嫌いじゃない。最初は、リノベーションするのに壁紙にくるまってしまったとこだったかな?
混ざっている人は、別の姿がひとつある。綺洞さんもそれだけだったらしいけど、布に布がくるるんと巻き付いているのは不思議だった。
自分で離れない場合は、気づかれるまで基本何日もそのまま。陸音さんが気づく時もあるけど、基本は放置プレイだって。布だと気づかれないもんね?
で、あたしみたいな在宅ワークだと話し相手も限られてるんで……仕事の打ち合わせついでに世間話をしたりしてる。そーすれば、つい戻って取れないときに気付けるでしょって。
「ありがとぉ。……元気なさそうだけど。仕事、ダメだった?」
「完全にダメではないけど……半分くらい不採用でした」
「あららぁ。なんか飲みに行くー?」
「んー。今はちょっと、綺洞さんにウリウリしてるー」
「ボクー?」
綿や不織布などにプリントしていくデザイナーが板について、まだ具体的には半年程度だけど。それは生活していく上での大きな一歩。でもでも、欲張っちゃうのはどーしたってある。やりたい放題にしたいまではいかなくても、作りたいこととか。
向き不向きがあるかもだけどぉ、あたしって才能ないとも思わない。
だってだって、大手の企業さんにも認められたけど。染め師の綺洞さんとの仕事も大好きだもん! そっちだって、もっといろんな絵柄を作りたいし。
なので、木のフレグランスたっぷりの綺洞さんをマフラーにしちゃうことで、落ち着くのだぁ!
「……洗ってないから、汚いよぉ?」
「のんのん。木の皮のいい匂いする〜」
「そ? ねえねぇ、お店入ろうかー? 作業場だと今いい匂いするよー」
「ほーほー、それは良いこと」
染料は全部がしっぶい匂いじゃないらしい。香料をつけたものもあるけど、色を保つためもあるんだってぇ、不思議。入らせてもらってから、綺洞さんもいつもの人間風に戻った。
「落ち込んだ那湖ちゃんに、ちょっとしたプレゼントぉ」
そう言って出してくれたのは、オレンジ色が素敵な染めのTシャツ。絞りもポイントのワッペンもなく、ただただ染めてあるだけ。ちょっと近づくと、シトラスオイルのようなさっぱりした香り!
「色オンリーの試作?」
「そそぉ。丈を長めにしたから、女の子だと夏用のパジャマにはどーぉ?」
「! これも素敵だけど、ワンポイントで絞りの波紋とかは??」
「アジアンぽいね! それだと男性向きのインナーにも使えそうぉ」
「んん! 試作できたら、HPを更新しよ! 男性客増えちゃう!!」
「やろやろ!!」
こんな元気づけしてもらってうれしいけど。綺洞さんは逆に機械音痴なんだよねぇ? 破壊行為はないけど、会得に二ヶ月とか……なので、簡単HPのデザイン以外の更新はあたし担当。
共同生活こそしてないけど、良き良きパートナーだと思っているのだぁ! ちなみに、ボツ案になったドレッド猫だけど。余分なもこもこをカットした上での、手づくりワッペンを次の営業先につけてったら採用された。