第2話 これがいつもの日常②
炊事がダメなら仕事とは?と聞かれれば、あたしだって一応社会人してるもん。
在宅ワークなんて聞こえがいいかもしんない。でも、たまーにキレイに身支度して出かけたりはする。滅多にないけど。
パソコンと向き合って、あーだこーだする日がほとんど。一個だけできるお湯沸かしポットで、気分によって甘い苦いの飲み物のスティックを溶かしたりする。今日はしょっぱい気分で玉ねぎスープ。
「けど、ダメだったんだぁ」
「ダメでしたぁー」
自分也に、結構睨めっこしてはみたけれど。今日はダメダメでしたぁ。なので、気分転換も兼ねて綺洞さんのお店にお邪魔しちゃってる。実は、ちょっとしたお得意先さんでもあるのだ。
「ボクは那湖ちゃんのデザイン好きだよ〜? 幻想的なのもあれば、カッコいいアナグラムもあったり」
「お褒めに預かり恐悦至極! でも、本業にしたいのはイラストレーターなんですけどねー」
あたしの仕事は、一応イラストレーター。でも、売れるのは『絵』と言うよりも『模様』に近いデザインばっかり。
プリントアートって言うのかな? 壁紙以外にも、ちょっと安価のシャツにプリントするデザインがあるとすっごく助かると、依頼は結構来るのだ。
きっかけは、自分也に営業したとこで鞄の中身がドバッと。典型的過ぎる流れでしかない。お陰で、自炊せずに色んなご飯屋さんで外食が余裕で出来るくらいに、儲かっておりますとも。
「でも、その仕事のお給金があるからぁ。普段は、やりたいことに集中出来るんじゃない〜?」
「……ですねぇ。ないものねだりはいかんいかん!」
綺洞さんはの本業は古着屋さんだけど、実は自分だけのブランドを出したいって言うデザイナーの卵さん。
布の妖怪さんってわけじゃないけど、元は和服メインのお家だったらしい。けど、家族が多いからか、お世継ぎさんはお兄さんたちで終わっちゃって。代わりに、染師の勉強をしつつ、古着屋さんの仕事もしてた。
で、あたしと出会ったのもお決まりのお約束。まさか、営業帰りにお店前でデザインぶちまけたと言うお約束とは、これ如何に?なくらいに。
『このデザイン、すっごくいい! ボク、染師の仕事もしてるんだけど!! 試作したい!!』
語尾がのびない綺洞さんのレアケースだったと思う。著作権とやらは共有ってことにして、試作したらご近所さん経由でお買い物してもらえるくらいに売れています。
そして、あたしの普段着はレディース用の試作。布代は、逆に古着側で気に入ったのを安く買ってるから大丈夫。ここ意外と大事。タダはダメ、絶対ダメ。
「おーい。買いに来たけどー?」
お客さんはあたしも知っている人だった。というか、今朝も綺洞さんとモーニングに行ったとこの店長さん。
「や、陸音さん。ご注文通りに、できたと思いますよー?」
「それは期待大だ。ん? 那湖か? 気晴らし? 仕事?」
「気晴らしですよぉ」
ドレッドヘアにタトゥー。
アロハシャツに、シルバーアクセ。
どこからどうも見ても日本人には見えないのに、日本の神様のおひとりらしい。気さくだから好きだけど。
一応、人間名みたいなのがあって。陸音さんと呼んでいいらしい。
「仕上がりは期待してっから、他見てきていいか?」
「ええ、もちろん。普段使いで?」
「おう。と言うか、暑くて仕事用の着替えシャツ欲しい」
「なるほど。あたし、選びましょか?」
「おう。それは頼む」
何せ、普段着はともかく。神様関係なく、個人のセンスがどっかずれている神様なのだ。