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27−3 葬儀

 苛立ち過ぎて、アーロンに当たってしまったことを、反省したい。


(だって、腹立つのよ。お前の主人でしょう!?)


 窓に設置された格子を握りしめて、叫びたくなるのを我慢しつつ、やはり我慢がならないと、壁を蹴り付ける。履いていたヒールが壁にめり込んで、脱いでからそれを引っこ抜いた。


「はあ、腹立つわあ。それで、こんな部屋に押し込む」


 ラシェルが連れてこられたのは、華美に飾られた、煌びやかな部屋だ。なぜこんな豪華な部屋に連れきたのかと疑問に思う。ベランダもあり、三階のそこだが、なんならシーツでも破って繋げれば降りられるような高さ。窓も多く、庭園が眺められる、いかにも王族が使用しそうな部屋。

 だが、


「この、格子よ。わざわざ取り付けたのかしら。ご苦労なことね」

 張り巡らされた格子は窓と外を隔てており、外に出ることは叶わない。


『壊しちゃう?』

 トビアの声に頷きたいが。壊して逃げるとしても、ヴァレリアンを探す必要がある。

 王殺しとして、ヴァレリアンを無実の罪で捕らえて、ラシェルを王宮に連れてきた。何をする気なのかと考えれば、罪を捏造し、断罪するくらい、今のクリストフはやりそうだ。


(宮を燃やしたように、理不尽に殺したら?)

「いやだ。そんなこと」


 考えるだけで、鼓動が激しくなってくる。

 シェリーのように、話を聞くこともなく、無惨に殺されてしまったら。


『ラシェル! どうしたの!?』

「ラシェル!」


 吐き気で床に倒れ込みそうになった時、支える腕があった。

 耳が遠くなったようで、誰の声かわからなかったが、床に膝を突く前に抱き上げられる。

 その抱えた相手を見て、ラシェルは咄嗟に腕で押し除けた。


「きゃっ!」

「ラシェル!? 大丈夫かい!?」

「触らないで!!」


 いきなり押したせいで、クリストフがラシェルを腕から落とした。転がったラシェルに、すぐに手を差し伸べようとしたクリストフを、大きく拒絶する。

 触れられた肌が、気持ち悪い。

 側にいるとわかっただけで、こんなに、寒気がして、吐き気がする。


「……水を、持ってこさせるよ」

 クリストフは間を置いてから立ち上がり、水を持ってくるよう命令する。横目で見れば、すぐに扉が閉まり、鍵が閉められる音がした。

 トビアが現れて飛びかかりそうな気迫を持つ中、落ち着くように、自分に言い聞かせるように心の中で唱える。

 すぐに水が運ばれてきて、クリストフはコップをよこしたが、手にしない姿を見て、テーブルの上に置いた。


「ただの水だよ。飲むといい」

「ヴァレリアンは無事なの!?」

「どうして、あの男の心配をするの?」

「私を助けてくれたからよ」


 川から落ちた時に助けられたわけではないが、間違っていない。

 クリストフは目をすがめつつも、座り込んでいたラシェルに手を伸ばしてきた。


「今度は、僕が君を助けるよ」

「触らないで!」


 近寄ってこられるだけで、ひどい寒気に襲われる。肌が粟立ち、背筋が凍りそうになった。

 いっときでも好きだと思っていた相手に対し、ここまで嫌悪感を持つとは思わなかった。

 一緒にいるのでさえ、気分が悪くなってくる。


「ヴァレリアンに、何をする気なの。王を殺したのも、どうせ王妃でしょう? ずっと逆恨みしていたそうじゃない。その罪をヴァレリアンになする気?」

「母上は、愚かだからね」

 クリストフは手を伸ばすのをやめて、ゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫だよ。君は僕が守るから。母上は近付かせない。安心して休んで」

「クリストフ!」


 ラシェルの呼びかけに、クリストフはゆるやかに笑んで、部屋を出ていく。

 その微笑みは、どこか不気味で、いつものクリストフとはまったく違うように感じた。

 あそこまで、毒々しい笑いをする人だったか。

 狂っていると言われるだけある。ラシェルは腕に鳥肌が立ったまま。寒気も消えない。


『ラシェル、あいつ、本当におかしくなってない?』

 トビアも感じたか、大きな違和感があるのは確かで、それが背筋を寒くさせた。


「ヴァレリアンは、無事なのかしら。トビア、彼を探して。王宮の精霊使いに見つからないように。今まで、会ったことがないから、どこにいるのか知らないけれど」

『前は遠くにいたけど、今はどうだろう。とにかく、あいつを探してくるよ。きっと牢屋だろうからね。大丈夫。あの男が簡単にやられるわけないし!』


 トビアはラシェルが恐れていると感じているか、おもんばかるように言って、姿を消した。

 トビアが探してくれている間、どうするか考えなければならない。

 宮にいた頃は、ラシェルの周りに精霊使いはいなかった。そのため、楽に気づかれず出入りができた。しかし、ここでは、何がいるかわからない。


 食事を持ってくるメイドたちは無言で、何も話したりしない。クリストフに怯えているのか、用が済んだらさっさと部屋を出ていく。扉の前には騎士がおり、それらはアーロンなどの知った顔ではない。王妃の手下を使っているのだろうか。


 クリストフは、王妃を愚かと言った。


「仲違いをしたままなのかしら……」

 それとも、クリストフが全権を握るようになったのか。

 コップの水を握りしめて、ラシェルはそれを睨みつける。


「お願い。無事でいて」

 小さな呟きは、水の中に沈み込んだ。

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