表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/50

13−2 犯人

 二人のどちらか、もしくは二人が、公爵家の情報を外に流しているスパイになる。

 ヴァレリアンは警戒しながらも、ラシェルを側に仕えさせた。そのラシェルを使うと考えれば、毒の混入が最も考えられる暗殺方法の一つだった。


 そうして、毒を含み、騒ぎを起こし、ヴァレリアンの暗殺に成功したと見せて、安心させる。安心させておいて、食事に嘔吐剤を混ぜ、口封じに殺すふりを、ラシェルにさせたのだ。

 犯人だと自白させられなければ、ラシェルがヴァレリアン暗殺の犯人のままだと、脅しは忘れずに!


「毒を含んでも、慣れてるから大丈夫だって。どういうことよ!」

 ヴァレリアンはラシェルがお茶を持ってくるたびに、毒が入っているかもしれないと考えながら飲んでいた。ご丁寧に医者を近くに待機させて。幼い頃から毒を飲んで慣れさせていたそうだが、だからといって助かる保証はないのに。

 実際、ラシェルがトビアの力を使い、毒を消さなければ、危うかったかもしれないのだ。


「腹立つわ」

 いきなり騒ぎはじめて、何事かと焦った自分が馬鹿みたいではないか。演技をするなら先に言っておけば良いだろう。

 そのせいで、トビアを彼らに見せてしまった。余計な真似をしたと、つくづく後悔している。


 おかげで円滑に犯人がわかっただろう。と開き直ってくるのが、また腹立たしい。


 結局、メイド長は長い間公爵家に仕えておきながら、裏切りを行っていた。

 周囲の者たちを使いながら、ヴァレリアンを陥れる。本人は手を下さずに、指示をしていた。

 今までは王妃の手の者を使い、ヴァレリアンの動向を探ったり、時に暗殺を企てたりしたようだ。ただ、前回の暗殺事件は、借金をしていたメイドを使った。

 そして前回の失敗に懲りず、今度はラシェルを使った。メイド長はラシェルの部屋を片付けるふりをして、公爵暗殺の犯人としての証拠を見つけたとする用意もしていた。


 同じ部屋の人間を、立て続けに犯人に仕立てようとしたのは、少々杜撰な気もするが。同室のカメリアも疑われるかもしれない。それを狙ったのだろうか。

 駒がなくなったのか、焦っているかのようにも思える。


「王妃から、催促でもあったのかしらね」

『さっさと殺せって? いつでも言ってそうじゃない?』

「それもそうだけれど」


 ヴァレリアンを早く殺したい理由でもあるのだろうか。

 そもそも、ただの恨みの延長で、ヴァレリアンを殺して得することなどないのだ。早く殺そうが遅く殺そうが、利益などない。ただ王妃の溜飲が下がるだけで。


「関わりたくないわ。本当に、関わりたくない」


 ラシェルは部屋をノックしてから扉を開ける。ベッドにいたカメリアが、ゆっくり起き上がった。

「ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」

「ううん。もう体調も悪くないから、眠っていられなくて起きていたの」


 カメリアは結局関わりがなく、嘔吐剤を飲まされただけで、完全なる被害者だった。

 トビアの力で嘔吐剤は消されたので、今は念の為ベッドにいるだけだ。胃の具合がよければ、眠っていても疲れるだけだろう。


 ヴァレリアンの場合は毒で内臓を傷めたので、カメリアに比べればずっと悪い。本来ならばしっかり眠っていなければならないほどだ。毒を消しても、傷めた内臓は治っていないからだ。


「大変だったわね」

 カメリアに言われて、苦笑いをする。大変だったのは巻き込まれたカメリアだろう。まさか自分が暗殺者だと疑われるとは思いもしなかっただろうに。

「しょうがないわ。私が夜外をうろついていたからだもの」

 カメリアは笑うが、そんなことで暗殺者にされてはたまったものではない。


 カメリアは騎士の恋人がいて、夜な夜な部屋を抜け出していた。

 その男は本棟に入ることができない。男を連れ込むことはできないので、カメリアが会いに行っていた。

 だが、残念なことに、その男が王妃の関係者であることを、彼女は知らなかった。


 ヴァレリアンは、カメリアが騙されて男と繋がっているのか、仲間なのか、どちらなのか判別が付けられなかった。そのため、メイド長と一緒くたにして疑いをかけていた。


「相手の男とは、もう会うなと言われたのでしょう?」

「うん、まあね」

 カメリアは肩を下ろす。好きになった男性が、まさか公爵家のスパイをさせるために、カメリアを選んだなどと、信じたくないだろう。


 相手の男はすでに捕えられている。騎士だが本棟に入れないため、カメリアを標的にし、本棟のことを聞き出そうとしていたそうだ。

 カメリアは内情を漏らすことはなかったようだが。


「でも、公爵を殺す手伝いをさせられないだけ良かったわ。変な物を渡されて、暗殺者の代わりにされていたかもしれないもの」

 自分で自分を慰めるように言って、カメリアは顔を上げた。その姿が強がりであるのはすぐにわかる。ラシェルはベッドに腰掛けると、そっとカメリアの背をなでた。


「馬鹿な男はあちこちにいるもの。あなたは少しだけつまずいてしまっただけだわ」

「そうよね。次の男を見つけるわ」

「公爵にいい男を見繕ってもらいましょう。女性に嘔吐剤を飲ませる真似をしたのだから」

「あら、いい手ね、それ」


 カメリアは無理に笑う。その姿が、あまりにも哀しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ