表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/50

1 プロローグ

※ プロローグは短編と同じになります

「あなたがやったのでしょう!」


 女の力にしては結構な強さで突き飛ばされ、ラシェルは床に手をついた。


「王妃様の宝石を盗むだなんて!」

「私ではありません。どうやって宝石を盗めるのでしょう」

 ラシェルは反論する。しかし、王妃に取り巻く令嬢の一人が、眉尻を大きく上げた。


「白々しい! 高価な服をねだり、それが叶わないとなったら、メイドたちに暴力を振るうなんて! クリストフ様の婚約者候補でありながら、なんて方なの!」


 呼び出された部屋で、ラシェルが静かに待っていたところ、突然女性たちが部屋に入り込んできた。

 何事かとラシェルが立ち上がれば、いきなりラシェルを突き飛ばし、寄ってたかって、ラシェルの知らぬ話を突き付けてきたのだ。

 一体何事なのか。そう問う間もなく、女性たちから白い目で見られる。


 集まってきたのは、この国の王妃や、王妃と親しくしている、婚約者候補の令嬢たち、それからメイドたちだ。

 メイドに呼ばれ、長く部屋で待っていたら、意味の分からない話をされ、盗みの汚名を着せられている。ラシェルが知らぬ、存ぜぬと訴えても、集まってきた女性たちはラシェルを問い詰めた。


「まさか、王妃様にまで飛び掛かるだなんて!」

 メイドの一人が叫んだ。なんの話をしているのか。飛び掛かられたのはラシェルで、こうして床に膝をついている。

 しかし、女性たちも同じことを言い出した。


「王妃様。お怪我はないでしょうか。このような女性が、王子の婚約者候補などと、あって良いはずありません!」

「クリストフが選んだ女性だからと、受け入れた結果がこれとは、情けないことね」

 飛び掛かられたという王妃は、シワ一つないドレスのまま、ラシェルを一瞥した。


「母上、一体これはどういうことですか。ラシェルが何をしたのですか?」

 誰かが呼んだのか、とうとう王子までもが部屋にやってきた。後ろには、婚約者候補のイヴォンネ・オーグレン伯爵令嬢もいる。


「王妃様、お怪我はないのですか!? 令嬢に飛び掛かられたと聞いて」

「わたくしは大丈夫ですよ。皆が助けてくれました」


 王妃の言葉に、オーグレン伯爵令嬢がラシェルを親の仇のように睨み付けてくる。その様を見て、クリストフが、本当にそんなことをしたのかと、ラシェルに問うた。


「クリストフ様。私は何もしていません!」

 ラシェルは床に座り込んだまま、大きく叫んだ。

 クリストフは急いでやってきたのか、緩やかに結んだ金色の髪を乱したまま、困惑の表情をしながらブロンズの瞳を王妃へ向ける。


「クリストフ。母は哀しくてなりません。あなたが連れてきたボワロー子爵令嬢は、メイドたちに当たり散らして、果てはわたくしにまで」

「王妃様の宝石を盗んだだけでなく、王妃様に飛び掛かってきたのです! 王妃様は優しく、王宮での振る舞いを教えてくださっていたのに!!」

 先に集まっていた令嬢の発言に、他の女性たちも頷く。


「ラシェル、君がそんなことをするだなんて」

「私は何もしていません。今も、私が突き飛ばされたのです!」

「よくもぬけぬけと、そんな嘘がつけるのでしょうか! クリストフ様、どうかご処置を。王妃様に無礼を働いたどころか、傷付けようとしたのですよ!」


「クリストフ。わたくしは婚約について、口を出す気はありませんでした。ですが、少し考えさせてください。子爵令嬢は、しばらく王宮から出して、頭を冷やしてもらった方が良いでしょう」

「それは……。いえ、母上がそう言われるのならば」

「クリストフ様。私の話を聞いてください。どうして、私の言うことを信じてくれないのですか!?」


 ラシェルは訴えた。この状況を見て、どうして私が飛び付いたと思うのですか。と。


「ラシェル、急に環境が変わって、疲れたのだろう。僕の別荘に行って、少し休んだらどうだろうか」

「そうであれば、あちらの離宮はどうかしら。王が好んでいる北部の離宮ならば、遠くはあるけれど、景色が美しい場所よ」

「父上のですか? そうですね。そうしよう。ラシェル、大丈夫だ。気持ちが落ち着くまで、しばらく滞在するだけだから」

「クリストフ様!?」


 ラシェルは何度も叫び、クリストフに無実を訴えた。しかし、その叫びも虚しく、ラシェルは遠い離宮へと連れていかれることになったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ