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 王都に着いたのは二日後の夕方だった。明後日には父は処刑される。残された時間はごくわずかなのに、決め手となる情報はない。

 エリージョとは王都に入るとすぐに別れた。エリージョは王城にある騎士隊の本部に向かい、事件の報告をすると言っていた。


 ディアンは待ち合わせの場所へ向かった。エリージョから大体の場所を聞いていたのですぐに見つかったが、アルノーはまだ来ていなかった。

 そこは食堂を兼ねた宿で、空き部屋があったので部屋を取った。

 アルノーは来るだろうか。来たとして、父の無罪を晴らすほどの証拠を手に入れることはできるのだろうか。手に入れたとして、うやむやにされないだろうか。その日のうちに無罪だと認めてもらい、父の命を救うことができるだろうか。

 結局最後は人頼みになっている現状に、自分の無力さを痛感した。


 悪魔と契約したのは、父が捕まって二日後。父を無罪にできる最も有効な人材をつけてやると言った。

 確かにアルノーは最大の切り札になる存在だ。しかし、もしアルノーが自分の父親を裏切れなかったとしても、ディアンはそれを責めることはできないと思っていた。

 知り合ってほんの数日。はじめ見た時は、酒臭くてむさい髭面のおっさんだと思っていた。しかし、一緒にいる間、ディアンがアルノーに電撃を食らわせたいと思ったことは一度もなかった。何の説明もせずに連れ回したのに、自分が動いている間は背後で見守り、自分が動けば命じなくてもついてきて、その手際もよかった。いつしか自分が引っ張られていた。優秀な騎士隊員だったのだろう。それをやめてまで父親から離れていたアルノーに無理をさせている。

 何が何でも証拠が欲しかった。それなのに、今、それを躊躇している。


 窓の外に人影を見かけたのは夜の十時を過ぎていた。

 窓を開けると、見上げたその姿はずいぶん様変わりしていたがアルノーだった。風呂に入り、髭を剃り、服も変えて小ざっぱりとしている。王都のような街を歩いていても違和感がない。公爵家に戻り、あの恰好ではいられなかったのだろう。相変わらずの着たきりで、風呂にも入っていない自分が少し恥ずかしく感じた。合図すると、すぐに部屋にあがってきた。先に人が来ると伝えておいたので、宿の人もすぐに中に入れてくれたようだ。部屋がわかるよう、部屋のドアを開けてアルノーが来るのを待ち、入るとすぐにドアを閉めた。

「無事でよかった。無事で…」

「おまえもだ。…待ち合わせくらいで泣く奴があるか」

 自分が泣いていると思わなかったディアンは、

「な、泣いてなんか」

と否定してみたが、拭った頬は濡れていた。アルノーは笑ってこめかみを拳で軽く小突いた。


「成果はあった」

 机の上に投げられた封筒。中には帳簿と書類、隣国とのやり取りの手紙があった。

 羊の代金五千万ゴールドを三年間十二回に分けて分割して支払う、とある。

 入金を管理する帳簿の中に出てくる「羊」「羊毛」。季節を問わず、年に四回。産地が変わり、ここ三年は…ラコーニ産。その金額が帳簿の額と一致していた。その支払いが終わったのが去年。

 さらに、羊の買い付けを要請する手紙。質は多少落ちてもいいから多めに。再来月までに調達できるなら、前回の二割増しで。

 産地にオルランディの名はなかった。

 これで、父の処刑を止められるのだろうか。


「ガリーニ公爵は引退することで話は決まっている。遠慮なくこれを使おう」

 よそよそしい言い方だ。

「あなたの、…お父さんでしょう?」

「知ってたのか…。エリージョだな」

 自分のことを知られていることが何となく恥ずかしく、アルノーは小さく舌打ちした。この分ではどんな昔話を聞かされているかわからない。エリージョとは訓練生だった頃からの付き合いだ。落ち込みがちなディアンを笑わせるネタはいろいろもっている。

「明日、これを渡してくる。急げば間に合うはずだ」

 アルノーは手に入れた証拠をまとめ、再び封筒に入れた。

「…私が。私が明日、これをお城に持っていく」

「いや、俺が行こう」

「駄目だ。自分の父親を告発するなんて。…これを持ち出してくれただけで充分だ」

「ディアン。…俺はそんなにやわな男じゃない。ずっとこの問題から逃げていたことは認めるが、親を怖がってたんじゃない。無力な自分が嫌になっただけだ」

「それでも、それでもいつか、後悔する時が来るかも、…しれないから」

 アルノーはディアンを引き寄せ、抱きしめた。ディアンは自分の汚れやにおいを移してしまうのではないかと、遠慮気味に離れようとしたが、軽く背中を叩かれ、

「俺に気を遣うな」

と言われて、小さく頷いた。

 腕につけた腕輪が光ったような気がした。

 あと一日だ。明日で解決してもしなくても、アルノーと共にいるのは終わる。約束の七日間。父を救える最後の一日。


「誰に渡す気だ。やはりあの男か」

「あの悪魔に渡していいのか、…まだ迷ってる」

「悪魔と言っても、無理は言うが信用はできる相手だ」

「そう、なんだろうか…」

 アルノーは、少し違和感を感じた。アルノーにこの仕事を持ってきた人物。ディアンに引き合わせた男をディアンが知らないことはないだろうが、

「…おまえが言う悪魔は、フランチェスコ王子だよな」

「王子?」

 ディアンはその問いに首を傾げた。

「王弟殿下…じゃないのか?」


 賭博場で金をすったアルノーの前に現れたのは、第二王子のフランチェスコだ。

 かなりいい酒を奢られ、見ていただけの賭博に自分が負けたことになっていた。あの王子ならそれくらいの細工はする。

 フランチェスコはアルノーの兄、ガリーニ公爵家嫡男エドアルドの友人だ。

 領の家で証拠を集めていると、兄が帳簿を出してきた。兄もフランチェスコも今回の武器横領事件に現公爵である父が関わっていることを知っていた。二人は公爵家が取り潰しにならないように図りながら、父を公爵の座からを追いやることを狙っていた。

 証拠の帳簿を嫡男である兄ではなく、家の厄介者になっている自分が出す。それがあの王子の望みで、そのためにこんな面倒な仕掛けをしてきた、そう思っていた。しかしそうではなかったようだ。


「王弟殿下は、私の亡き母の幼なじみで、この件で唯一頼ることができた王族だ。その腕輪は私の希望で王弟殿下が用意したもので、この事件解決に最適の人を導くと…」

「あの二人がつながってるとは聞いたことがないんだが…」

「二人は同じ立場なんだろうか。どっちに渡しても、同じ結果になると思うか?」

 王弟に頼んだことをフランチェスコ王子が引き受けているのだから、二人はつながってると考えていいのだろう。しかし、アルノーには判断材料がなく、何よりディアン自身が王弟を信頼しきれていない。

「俺は王弟殿下には面識がない。魔術の研究に熱心で、妙な道具を作り、あまり政治には興味がないと聞いているが…」

「第二王子は、信頼できる人か?」

「腹黒いが、信頼はできる」

「それなら、…頼まれてほしい。どうしても失敗はできないんだ」


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