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 まだ日が昇らぬうちに目覚めたディアンが動く気配を察し、アルノーも出発の準備をした。

 ラコーニ領の領主のいる街に着いたのは昼過ぎだった。

 着くとすぐにロッティ商会を訪ねた。商会長は多忙を理由に会おうとしなかったが、オルランディの小屋のことで話があると言うと面会に応じてもらえることになり、一時間ほど待たされたが商会長の部屋に通された。

 ロッティ商会長は幼さの残るディアンを軽く見ていたが、背後にいるアルノーには警戒していた。

「さて、どのようなご用件で?」

 商会長は軽い口調で問いかけたが、着席を勧めることはなかった。ディアンは立ったまま顔色も変えずに質問に答えた。

「オルランディの小屋を借りていた経緯を知りたい」

 事前に伝えてある内容だ。ロッティは慌てることなく

「…代理で借りただけですよ。依頼主は明かせません。そういう仕事ですから」

「貸し手にはあえて『子爵』と明かしたそうだが? どちらの子爵様だ?」

 その問いにロッティが作り笑顔を消した。

「ついでに倉庫管理も引き受けていたんじゃないのか? そちらの商会なら荷物を運び込むのもお手のものだろう?」

「…何が言いたい」

 ディアンは睨みつけるロッティを冷静に観察し、

「聞いただけだ。邪魔をした」

と告げると、そのまま部屋を出た。

 二人の後を商会の人間がつけていたが、そのまま気付かないふりをしてその日の宿を見繕い、アルノーに目をやった。

「おまえの金を当てにしていいか? 無理なら野宿でもいい」

「こんな街中で、商会にケンカを売っておいて野宿は危険だろう。…まったく、どっちが上官だかわかりゃしない」

 ぼやきながらもアルノーは宿の支払いをし、狭い一部屋を借りた。


「これからの計画を聞かせてくれ」

 部屋に入るとすぐにアルノーに聞かれたが、改めて聞かれてもディアン自身行き当たりばったりで動いていた。とりあえずは思いつくまま答えた。

「ラコーニ子爵の話を聞きたい。だが、…それだけでは駄目だ。その先につながる誰かがいるはずだ。王城の騎士隊にも顔が通じ、出来あがった筋書きを強引に受け入れさせられるような人物が…」

 アルノーはさっき行ったロッティ商会を突破口にしたいのだろうと察したが、

「ロッティがあの程度のゆさぶりで動くか?」

「後をつけてきたということは、警戒するようなものがあるんだろう。騎士隊は犯人探しは終わったと思っている。後は武器の回収だが、小屋で見つかった武器は横領が疑われる数の半分もないらしい。騎士隊と捜査官が探しているが、まだ見つけられていない。自白しない犯人が何をされるか、…わかるだろ?」

 ディアンは手を握りしめていた。投獄されているオルランディ子爵のことを憂慮しているのだろう。

「商会に忍び込んでみようか…」

 思い付きとはいえ、あまり賢い選択とは思えない。

「ロッティが持っているとしても、倉庫かどこかに隠してあるだろうな。あるいは子爵邸か。下手な倉庫より安全だが。既にオルランディ領のどこかに運んでいる可能性も否定できない」

 アルノーが並べる「可能性」に、ディアンは忍び込む案はやめたが、

「可能性をひとつづつ潰していく暇はない。…六日後、オルランディ子爵は処刑されることが決まっている。それまでに何とか無罪を示せる証拠を…」

 まだ残りの武器の隠し場所もわからないのに、刑の執行が決まっている。何が何でも事件を「解決」に持っていきたい者がいるのだ。


 借りた部屋に短い蝋燭で明かりをともし、二人は裏口から宿を出て、街道につながる道の近くの林の中に潜んだ。やがて街の門は閉まり、街から街道に向かうものはいなくなった。

 交代で寝ておくことにし、先にディアンが仮眠をとった。剣を抱え、木に体をもたれかけ膝を立てて座る。目を閉じたが、疲れているのに妙に目が冴えて眠れなかった。眠ってしまえば二度と目覚めることなく、何も解決できないまま全てが崩壊していくような不安がよぎる。


 眠れないのを察したのか、アルノーが声をかけてきた。

「あの男とは、どういう知り合いだ?」

 あの男。誰のことを聞いているのかわからなかったが、腕輪を見せられて納得した。自分の元にアルノーを連れて来た男のことを言っているのだろう。


  七日だけの味方を送ろう。

  男に例の腕輪をつけた。

  言うことを聞かなければ電撃を落とせばいい。


 手紙には、待ち合わせ場所と電撃をくらわすための呪文が書いてあった。


「知り合いと言うほどでも…。この事件の結末を変えたいと思っている私に協力してくれている。利用されているのはわかってる。こっちも利用しているのだからおあいこだ。…そっちは? 面倒な仕事を任されて困っているだろう」

「昔、あの男の護衛をしていてね。とはいえ、酒を飲んで賭博で大損しているところに来るとは思わなかった」

「賭博?」

 ディアンは嫌いな虫でも見たかのように顔をしかめた。潔癖な若者には嫌われる告白だったかもしれない。

「酒の勢いで、知らない間に200ゴールドもすっていた」

「にひゃくっ!」

「その借金の肩代わりが、この仕事って訳だ」

「こんな子供について走り回らされるなんて、思いもしなかっただろう」

「そうだな。…まあ、ただで剣ももらえたし、少しだが路銀もある。あと五日でどこまで覆せるかはわからんが、座ってカードやルーレットの数字を追いかけるよりは面白いだろう。…動きがあったら起こす。少しでも目をつぶって、体を休めとけ」

 アルノーの大きな手で頭をぐしゃっと撫でられ、ディアンは顔を自分の膝にうずめた。少し安心感を覚えたとたん、泣きそうになった。

 まだ泣けない。まだ何もできていない。

 自分の使命はオルランディ子爵の無実を晴らし、ほぼ取り潰しが確定している子爵家を救うことだ。


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