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ガリーニ公爵領に隣接する小さな領の田舎町。
そこに一年半前にやって来た女は少し風変りだった。
尼僧が還俗したのか、やってきた当初は肩にも届かなかった髪も随分伸びてきた。
教会に附属する学校で街の子供たちに勉強を教える傍ら、呼ばれれば畑を手伝い、気になればよその家の修理をする。羊飼いの少年と一緒に山に登ることもあれば、草刈りをしたり、本を読みながら誰かの子供をおぶっていたり、酒場で臨時の給仕をしていることもあった。
何人かの男が興味を持ち、声をかけたが進展することはなく、そうしないうちに戦線離脱した。というのも月に二、三度女のもとにやって来る男がいたからだ。年の差を感じさせない親密さがあり、家族かと思いきやそうでもなく、女の様子を見ているとまんざらでもなさそうなのに男が不器用なのかなかなか進展しない。そのじれったさに周囲の者は興味本位に冷やかしながら、二人を見守ることにした。
噂では、陰湿な男に狙われ、家族も家も全てを失って教会に逃げていた女に男が惚れこみ、大金を寄進して身元を引き受けたのだとか。
別の噂では、昔二人は婚約者だったらしいのだが、男が親が勝手に決めた縁談から逃げ、一度も会うこともなく振ったらしい。そうとも知らず偶然二人は出会い、恋に落ちたが、女は当時のことを根に持っているのだとか。
さらに別の噂では、女はどこぞの領主の娘だったが、家が没落し、自らの命を絶とうとしたところを男に助けられたのだとか。
噂の真相はわからないながらも、つい先日ようやく男は女からいい返事をもらったらしい。男の浮かれた姿であっという間に話は広まり、ご機嫌な男のおごりで、その日、町の酒場は飲み放題になった。
間もなく女はこの町を離れることになったが、落ち着いた先はさほど離れていない領主の館だった。
男は隣領のガリーニ公爵の弟で、結婚が決まった後、この領の新たな領主となった。領主はもちろん夫人も領の運営に積極的で、その後も頻繁にあちこちでその姿を見かけることになった。
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2023.7.8 雨の七夕の翌日




