13
フランチェスコが王弟を連行するため離宮に乗り込んだ時、アルノーは近衛兵の制服を着てフランチェスコに同行し、ディアンを探していた。
前日に王弟の元に行ったきり、ディアンは戻って来ていない。離宮のどこかに捕らえられている可能性が高かったが、昨日の段階では動くことが許されなかった。
アルノーが王弟の離宮の地下室でディアンを見つけた時、ディアンは意識を失って倒れていた。足元には割れたグラスがあり、ディアンがそれを口にしただろうことはたやすく想像がついた。
ディアンは寝息を立てていた。疲れと寝不足、それに酒のせいで眠っているのだろう。
王弟はディアンに致死量の毒を用意していたが、フランチェスコの密偵として潜り込んでいた侍女がかなりきつい酒に入れ替えていた。事前に聞いていなければ倒れている姿を見て慌てふためいていただろう。
だが、出されたものが毒とわかっていて飲んでいたとしたら、ディアンは死ぬ気だったことになる。
アルノーはディアンを肩に担ぎ、フランチェスコに使ってもいいと言われていた王城の一室に運び込んだ。
ベッドに寝かせるにもずいぶんと汚く、ベッドを汚してしまいそうだった。掃除や洗濯をするのは自分ではないが何となく気が引け、風呂嫌いのガキなら面倒なので寝てる間にとっとと入れてしまえばいいかと一旦ソファに寝かせ、風呂を用意してもらった。侍女とメイドは手早く準備を整え、何度か振り返りながら出て行った。
自分の上着を脱いで腕まくりし、ディアンのマントを取ると、思った以上に細身だった。着ていたシャツのボタンを外して脱がせると、その下にはさらしが巻かれていた。怪我でもしてたのか、防御のためか、ずいぶん頑強に…、とさらしを緩め、手が止まった。
柔らかそうな白い丘状の盛り上がりが、押さえつけていたさらしを押し戻そうとしている。
どういうことだ?
頭が混乱し、手が止まったまま思考を巡らせる。その間にも緩めた部分からさらしがほどけようとしている。
胸がある。男じゃない。つまり…
女。
…!!
アルノーは慌てて自分の脱いでいた上着をディアナにかけ、城の侍女を探して廊下を走った。そしてついさっき風呂の湯を用意してくれた侍女を見つけると、しどろもどろに事情を話し、ディアンの体を洗ってもらうことにした。
「まあああ、なんって、汚い!」
四名の侍女が集められ、ディアナを風呂に入れると、着替えが終わったところでアルノーが呼び出され、言われるままディアナをベッドまで運んだ。
「ガリーニ公爵令息。王城に女性を連れ込み、肌をさらけ出すなんて、どういうことでしょう!」
侍女頭の怒りに、アルノーは弁解の余地もなくうなだれていた。それを見ていた残りの侍女たちはくすくすと笑っていた。
「…と言いたいところですが、フランチェスコ殿下より詳細は伺っております。この部屋はご自由にお使いください。…ちょっと見れば、女性だとわかると思うんですがね? あなたの目は節穴ですか?」
深く礼をして、侍女たちは笑いをこらえながら部屋を出ていった。部屋に控える者はいなかった。
ずっと共にいた少年が少女だったと知り、アルノーはそれまで一つの部屋で寝泊まりしていたことを振り返り、急に恥ずかしくなった。今もこうして同じ部屋をあてがわれているのは、あの王子のいたずらか。侍女から報告を聞いて、さぞ面白がってることだろう。
薄汚れた服。短く切った髪はざんばらで、風呂も何日も入ってなかっただろう。寝る間も惜しみ、ただ父を救う手立てを見つけることに思いを馳せるその姿に、助けの手を差し伸べてやらなければいけないような気にさせた。アルノーの中でディアンは熱い思いを持った少年だった。そう思い込んでいた。
いくらマントを着ていたとはいえ、励まそうと抱きしめた時にどうして気が付かなかったのか。
これは鈍いという言い訳では済まされない。
アルノーは頭を抱えてうずくまるしかなかった。




