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王弟ルカとは、参加を強要された夜会でほんの二、三度顔を合わせて挨拶を交わしただけ。自分のことを相手にするとは思えなかったが、すがる思いでに連絡を取ると、すぐに返事が返ってきた。
王弟の住む離宮に出向き、
「お願いです。父を助けてください。父が武器の密輸などできるはずがありません」
と嘆願した。しかし
「証拠が揃っている。かなり状況が悪く、刑を免れるのは難しいだろう」
と言われた。あまりに淡々とした物言いに事件に対する関心のなさが感じられたが、引くわけにはいかなかった。
「それなら、私が父の無実の証拠を探し出します。期日までにきっと証拠を持ち帰りますので、父を助けてください」
必死で訴えるディアナに、王弟はじっとディアナを見つめた後、
「…覚悟を見せてみろ」
と言った。
ディアナは編み上げていた自分の髪をほどき、母の形見の髪飾りをつけ直して一つ結びにすると、王弟の護衛から短剣を借り、迷うことなく髪を切り落とした。
あまり母に似ていないディアナが唯一母親から譲り受けたもの、それは髪の色だった。母の形見をつけた、母と同じ色の髪。
王弟は目を輝かせて喜んだ。ディアナが持つ髪の束を側近に取らせ、自分の手元に届けさせると、その髪に口づけをした。
「いい覚悟だ。だが、これだけでは足りないな。この件が解決してもしなくても、おまえの命を私に差し出せ。そうすれば、おまえの父を救うのに協力しないでもない。…そうだな、解決へと導いてくれる者を一人、あてがってやろう」
ニヤリと見せた笑み。
これは悪魔との取引だ。自分の命を引き換えにするのは当然だ。
助けを得られるなら構わない。父の無実を晴らせば領も戻り、家族も救われる。そこに自分がいる必要はない。命を懸けて父を救ってみせる。
王弟は自身の持つ魔法道具の一つ、「有限の適材の腕輪」を取り出した。
「この腕輪は目的の達成に一番近い者を呼び寄せると言われている。身に着ければ設定した期日まで手下として働くだろう。言うことを聞かなければ雷の魔法を食らわせるといい。だが期日が来たとたん腕輪は消え、それまでのことは何も覚えていない。どんな無茶や不正を頼んでも後腐れはないという訳だ。…そうだな、期日はおまえの父の刑の執行日の0時、としようか」
説明を受け、ディアナは黙って頷いた。
王弟は近日中にこの腕輪にふさわしい人材を手配しよう、と答えた。
その間もディアナなりに証拠探しを続けた。捜査の入った王都の家に残る書類は少なく、それでも何かヒントになるものがないかと必死に読み解いた。武器が押収された場所に戻る必要を感じ、新聞や知り合いからの情報で事件のあった場所、その所有者を確認した。ここ数日の父の動きを執事に確認したが、無罪を信じて働きかける執事も諦め顔だった。
王弟から待ち合わせ場所を指定する手紙を受け取ると、手元にある金をかき集め、家の者には自分はショックで体調を崩して寝込んでいると口裏を合わせてもらい、使用人から譲ってもらった男物の服に着替えて馬に乗って王都の屋敷を出た。




