5話「婚約解消と留学」
わたくしは自宅に帰り、お父様とお母様に事情を話しライアン様との婚約解消を願い出た。
「申し訳ございません、お父様、お母様」
「ソフィーナ、お前が謝ることはない」
「そうよ、側妃様に何度も頭を下げられ仕方なく受けた縁談ですもの」
「ソフィーナが殿下に愛想を尽かしたら、婚約を解消していいという条件付きで婚約したのだ。
婚約を解消する権利はお前にある」
第一王子殿下の生みの親は側妃様だ。しかし彼女は子爵家の出身で王宮での立場が弱い。
長らく陛下にはライアン様以外のお子様がいらっしゃらなかった。
そのためライアン様が幼い頃は、「次期王太子はライアン様に決まりだ」と囁かれていた。
しかしライアン様が十歳のとき、王妃様が男子を出産した。
これにより、第一王子と第二王子の間で王太子の座を巡る戦いが起きることになる。
側妃様からライアン様との婚約の話が持ち込まれたのは、その頃だ。
側妃様は筆頭公爵家である我が公爵家を、第一王子の派閥に取り込みたかったのだろう。
わたくしと婚約したことで、第一王子が王太子になることはほぼ確実となった。
「本来ならライアン様がソフィーナのご機嫌を伺い、ソフィーナをデートに誘って接待し、高価な贈り物をしてソフィーナの機嫌を取り、歯の浮くような言葉を並べソフィーナの心を鷲掴みにしなければならなかったのよ」
「それを何を勘違いしたのかあのアホ王子は……!」
お父様が額に青筋を浮かべ歯ぎしりしている。
お母様は普段と変わらないほほ笑みを湛えていらっしゃるが、目が少しも笑っていなかった。
二人ともわたくしが殿下にコケにされたのが、よほど悔しかったのだろう。
「お父様、お母様、どこに誰の耳があるかわかりません。
発言にはお気をつけください」
「聞かれても構わん!」
「そうよ! 誰に聞かれても構わないわ!」
お父様とお母様は、殿下の今までの態度に相当腹を立てているようだ。
「それで、これからお前はどうするつもりだ?」
「わたくしは修道院に入ろうかと」
「だめよ!
修道院に入ったぐらいでは、側妃様も第一王子もあなたのことを諦めないわ!」
「そのとおりだ。
側妃様は、お前を第一王子の婚約者に戻そうと躍起になるはずだ!」
そういうものかしら?
「それに王妃様と第二王子派閥の動きも気になりますわ」
「王妃様はこの機会に、お前を第二王子の婚約者にしようと画策するだろう!」
「第二王子のハムリン様は七歳。
わたくしとハムリン様は十年も歳が離れています。
流石にわたくしを第二王子の婚約者にするのは、無理があるのではありませんか?」
「それでもあの王妃は油断できませんわ!」
「なにせお前を婚約者にすれば、立太子は確実だからな!」
困りました。
殿下との婚約解消後、修道院に行く以外の道を考えていませんでした。
「そうだわ!
隣国に留学するというのはどうかしら?」
「隣国にですか?」
「隣国は私の祖国。
フリード様とお前は幼い頃は仲が良かったものね。
きっと、あなたの支えになってくれる筈よ」
隣国には母の兄の息子、つまりいとこがいる。
フリード様はわたくしの一つ年上。
わたくしが第一王子と婚約する前は、王都での社交シーズンが終わった秋頃に、母はわたくしを連れて実家に帰省していた。
第一王子と婚約してからは忙しくて、隣国に行けなかった。
だからフリード様とはもう七年もお会いしていない。
フリード様、お元気にしているかしら?
「分かりました。
お母様の言う通り隣国に留学します」
「よし! 決まりだな!
わしも休暇を取って隣国に行くぞ!」
「もちろん私も一緒に参りますわ」
お父様もお母様も隣国に行くことにかなり乗り気だ。
「でもあなた、お仕事はどうするのですか?
あなたがいないと王宮の仕事が回りませんよ」
お父様はお仕事が忙しくて、わたくしが幼い頃隣国に行くときも、お父様だけは留守番だった。
「休暇が取れないなら宰相の職を辞す!
娘を蔑ろにする王子とその王子を育てた国王になんか仕えていられるか!」
「あら素敵。
わたくしもこの国の無能な王族にはうんざりしていましたの。
皆でわたくしの実家に帰ってゆっくりいたしましょう」
宰相のお仕事ってそんなに簡単に辞めて良いものなのかしら?
ですがお父様は早朝から深夜まで働き詰めでしたもの。
この機会に少しぐらい羽根を伸ばしても良いかもしれませんね。
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