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4話「約束を覚えていたのはわたくしだけでした」


この服はライアン様から頂いた物です……わたくしは喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。


ライアン様は今わたくしが身につけている服に見覚えがないようです。


この服は昨年の誕生日にわたくしに、ライアン様がプレゼントして下さったものなのに……。


ライアン様は、昨年のことなど忘れてしまったのかしら?


もしかしたらわたくしが今身につけている服は、ライアン様が選んだ物ではないのかもしれません。


だとしたらこの服は、ライアン様のお付きの方が選んだ物ということに……。


忘れているのか、婚約者へのプレゼントを他人に任せているのかわかりませんが、どちらにしても最低です。


ライアン様への不信感が増していく。


「あっでも、ソフィーナ様が身につけているアクセサリーは素敵ですよね。

 ソフィーナ様、ネックレスとイヤリングに使われているのはダイヤモンドですか?」


ミリア様が羨望と憎しみが混じったような目で、わたくしの身につけているアクセサリーを見つめる。


「いえこれは本物のダイヤモンドではなくイミテーションで……」


「イミテーション」と言った瞬間、ライアン様がわたくしをギロリと睨んだ。


「イミテーションだと?

 仮にも君は公爵家の長女で、第一王子である僕の婚約者なんだぞ!

 身につけるものにはもっと気を遣ってくれ!

 僕の婚約者がイミテーションを身につけているなんて、かっこ悪い!

 僕に恥をかかせるつもりか!」


ライアン様はわたくしをキッと見据え、強い口調でおっしゃった。


「あの……ライアン様。

 このネックレスとイヤリングに見覚えはありませんか?」


「僕は王子だぞ!

 そんな安物に見覚えがある訳がないだろ!」


ライアン様がわたくしの問いに即答した。


このネックレスとイヤリングは、幼い頃ライアン様と城下町を散策したおりに、ライアン様がわたくしにプレゼントしてくださった物です。



「今日という素敵な日の思い出にこれをプレゼントするよ。

 大人になったら本物をプレゼントするね」



あのときライアン様は頬を染め、瞳をきらきらさせそうおっしゃった。


そしてわたくしはネックレスのお礼に、わたくしの瞳の色と同じ茶色いインクの硝子ペンを彼に贈った。


その思い出があるから、今日まで厳しい王子妃教育にも耐えて来られた。


「申し訳ございません。

 以後気をつけます」


わたくしは悔しさに耐え、ライアン様に頭を下げた。


「ライ様……いっけない外では『殿下』って呼ばなくちゃいけないんだった。

 そろそろガイとロズモンドが戻って来る頃よ」


ミリア様がライアン様の腕を引っ張る。


「ライ」……ミリア様はふたりきりのときは、ライアン様をそう呼んでいるのですね。


ライアン様はわたくしには愛称で呼ぶことをお許しにならなかった。


それなのにミリア様にはお許しになったのですね。


ミリア様はわたくしの前でわざとライアン様を愛称で呼んだのだろう。


ライアン様に愛されているのが誰か、わたくしに見せつけるために。


「ああ、そうだったな。

 行こうミリア。

 まだまだ見て回りたい屋台がたくさんあるのに、()()()()()()に時間を食ってしまった」


ライアン様にとって、わたくしとの時間は「つまらない事」なのですね。


「ライアン様、最後に一つよろしいですか?」


「何だソフィーナ?

 急いでいるので手短に頼むぞ」


ライアン様は少し苛ついた様子で振り返った。


「茶色いインクの硝子ペンを今でもお持ちですか?」


わたくしからライアン様への最後の確認。


ライアン様の返答次第で、彼との今後の関係を変えなくてはいけない。


「茶色いインク……?

 そんな地味な色の硝子ペン、持ったことすらないな」


それがライアン様の答えだった。


「さようでございますか」


茶色いインクの硝子ペンは、ネックレスとイヤリングのお返しにわたくしが彼にプレゼントした物。


それを持ったことすらないとおっしゃるのですね。




「君の瞳の色と同じインクのペンだね。

 このペンを君だと思って一生大切にするよ」



頬を朱色に染め、はにかみながらそう言った純粋な少年はもういない。


幻想を追いかけるのは、もうやめよう。


ライアン様は変わってしまったのだ。


彼の心の中にわたくしはいない。


わたくしの中で何かが壊れた瞬間だった。


「他に用がないなら僕は行くぞ」


殿()()、お時間をお取りして申し訳ございませんでした」


わたくしは殿下にカーテシーをした。


「行こう、ミリア」


「はーい、ライ様。

 やだまた言っちゃった。

 さようならソフィーナ様」


ミリア様はライアン様に気づかれないように、わたくしに向けて勝ち誇った笑顔を見せた。


そんなことはもうどうでもいい。


わたくしは彼に心を寄せるのも、彼に期待するのも止めたのですから。


さようなら殿下、ミリア様。


もう二度とあなた方にお会いすることはないでしょう。





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