3話「『幸い今日は何の予定もなかった』と彼は言った」
振り返るとミリア様が立っていた。
ミリア様の隣にはライアン様が立っていて、二人は当然のように腕を組んでいた。
「どうして……?」
どうしてライアン様がミリア様と一緒に現れるの?
今日はわたくしと約束していたはずなのに……。
「なんだ、ソフィーナも祭りに来ていたのか?」
ライアン様、もしかしてわたくしとの約束を忘れてしまったのですか?
ライアン様の口ぶりからしてそうとしか考えられない。
わたくしは、ライアン様が無事だったことにホッとした。
それと同時にわたくしとの約束を忘れ、他の女の子と祭りに来ていることに苛立ちを覚えた。
「ソフィーナ様、邪推しないでくださいね。
私たち二人きりで来たわけじゃありませんから。
ガイ様とロズモンド様も一緒ですよ」
「さようですか。
それで今お二人はどちらに?」
「ガイ様とロズモンド様は飲み物を買いに行ってます」
おそらくミリア様のおっしゃっていることは本当だろう。
それでもライアン様がわたくしとの約束を忘れ、女の子と腕を組んで歩き、お祭りを楽しんでいた事実に変わりはない。
「生徒会のメンバーに秋祭りを案内して欲しいと頼まれたんだ。
ガイとロズモンドもミリアも地方出身だから王都をよく知らないらしくてな。
皆、学園の勉強や生徒会の仕事が忙しく、王都を散策できなかったというし、この機会に三人に王都を案内していたんだ。
幸い今日は、何の予定もなかったからな」
今の言葉で確信しました。
ライアン様はわたくしとの約束を、完全に忘れているようです。
「さようですか」
わたくしは温度のない声でそう答えた。
もうこの方に何を期待しても無駄ね。
「ソフィーナ様も誰かと待ちあわせですか?
いいですね、生徒会に入っていない人は暇で」
暇……ミリア様にはそう思われているのね。
今日王子妃教育を休んだ分は、明日以降取り戻さなくてはいけない。
朝は日が昇る前から起きて授業の予習、昼は学校、放課後は十一時すぎまで王子妃教育と王子妃と王子の仕事に追われ、帰宅したら学園の宿題を済ませ、授業の復習をしなくてはいけない。
寝るのはいつも二時過ぎ。
そうですか、わたくしが暇ですか。
もしかしてミリア様はわたくしとライアン様がデートの約束をしたのを覚えていた?
それで当日当てつけのように、ライアン様と腕を組んでこの場所に現れたのかしら?
「それにしてもソフィーナ、君の服装は何だ?
けばけばしい色の服だな?
君には全然似合ってないぞ。
赤にしてももっと上品な色もあっただろうに……。
あえてその色を選んだ君のセンスを疑うよ。
それに比べてミリアは平民だが品のある服装を心がけている。
君もミリアを見習うんだな」
ライアン様に言われて気づいた。
彼は水色のジュストコールを身にまとい、ミリア様はレモンイエローのワンピースを着ていた。
「これさっきのお店で殿下が買ってくれたんですよ。
可愛いからそのまま着てきちゃいました」
そう言ってミリア様がくるりとその場で一回転した。
ワンピースの裾がフワリと揺れる。
ライアン様は無邪気な笑顔ではしゃぐミリア様を、眩しそうに眺めていた。
「ミリアがその服に着替える前に着ていた、カナリアンイエローのワンピースも素敵だったよ」
「あのワンピースは、殿下の瞳の色に合わせて着てきたんですよ」
「はは、奇遇だな。
僕もミリアの瞳の色に合わせて今日の服を選んだんだ」
二人は偶然ではなく、意図してお互いの瞳の色の服を選んで着ているのですね。
お互いの瞳の色の服を纏うのは、婚約者や恋人同士がすることなのに。
これではまるでお二人が恋人同士のようだわ。
知らない人がライアン様とミリア様を見たら、お似合いのカップルだと思うだろう。
「でもこれがソフィーナ様の髪と瞳の色だったら大変ですよね。
髪の色を選んでも瞳の色を選んでも、どちらも枯葉色で地味ですもの」
ミリア様が私を見て、クスリと笑う。
「おいおい勘弁してくれよ。
この年で茶色の服なんて着たくないよ。茶色の服を着て、ソフィーナの隣に立ったら地味な枯葉カップルの誕生だ」
「でも、ソフィーナ様はライアン様の髪の色の赤と、瞳の色の黄色を纏えるじゃないですか。
あれ〜?
もしかしてソフィーナ様の今日の装いって、ライアン様の髪の色を意識してます?
ライアン様と待ちあわせした訳でもないのに、恥ずかしい〜〜。
しかもそんな派手な赤い服を着て、城下町にいるなんて」
ミリア様が見下すような眼差しをわたくしに向けた。
やはりミリア様は、学園でわたくしとライアン様がデートの約束をしたのを聞いていたのね。
ライアン様がわたくしとの約束をすっかり忘れているのを良いことに、このような嫌がらせをしてくるなんて……。
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