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番外編②「予行演習」電子書籍化記念

※二人はこの時点で婚約してますが、婚約発表はしていません。




【フリード視点】



ソフィーナが帝国に来てから二カ月が過ぎた。


季節は秋から冬に移り変わっていた。


ソフィーナがこの国で冬を過ごすのは初めてのことだ。


彼女が寒い思いをしないように、俺は秋の終わりに女性用のコートやマフラーや手袋やブーツを沢山買い込んだ。


ソフィーナの第一衣装部屋は既製品のドレスでいっぱい、第二衣装部屋はオートクチュールのドレスでいっぱいだったので、冬服のために第三衣装部屋を作った。


同じ頃、父上も叔母上のために衣装部屋を増築していた。


叔父上は、そのうち離宮が二人の衣装部屋で埋め尽くされるのではないかと危惧している。


この日、俺たちは城の眺めの良い部屋でお茶をしていた。


彼女が寒くないように暖炉にたくさんの薪をくべた。


お茶はオレンジペコ、お菓子は彼女が好きなガトーショコラだ。


「演奏会ですか?」


「そう、毎年女神の生誕祭(冬至)に学園の講堂で演奏会が開かれるんだ。俺は毎年バイオリンのソロ演奏をしている。今年はソフィーナと合奏したいなと思って。俺はバイオリンを、君はピアノを演奏をする。だめかな?」


婚約者がいるものはソロ演奏ではなく、婚約者とデュオ演奏することになっている。


彼女との婚約発表はまだ公にはしていない。


だから女神の生誕祭の時点では俺たちの関係は、ただのいとこだ。


だけど俺たちが婚約しているのは、学園では公然の秘密だし、俺は三年生だから演奏会に参加できるのはこれが最後だ。この機会を逃したくない。


誰かに彼女との関係について突っ込んで聞かれたら「仲の良いいとこだからアンサンブルしました〜〜」と言ってごまかしておけばいい。


極稀に兄弟やいとこと合奏する生徒もいるし、別におかしくはないだろう。


「だめではありませんが、私でよろしいのですか?」


「君と一緒がいいんだよ」


彼女の手を握り、じっと瞳を見つめる。


見つめられたのが照れくさかったのか、彼女がぽっと頬を染めた。


可愛いな。キスしたいな。


メイドの目がなければ、口付けできるんだけどなぁ。


早く結婚したいな。彼女とふたりきりになりたい。イチャイチャしたい。


「そこまでおっしゃるのなら、お引き受けいたします。フリード様に恥をかかせないように、がんばります」


「ありがとうソフィーナ!」


俺は彼女をお姫様抱っこして、その場でくるくると回った。


「フリード様、はしゃぎすぎですわ」


「ごめんね。ソフィーナと合奏できるのが嬉しくてつい」


ソフィーナに「下ろしてください」と言われたけど、彼女を離したくなかった。


「もう少しだけ」


「使用人の目もあるので自重してください」


彼女にそう言われて怒られるまで、彼女をお姫様抱っこしたまま、くるくると回っていた。


彼女を長椅子に下ろしたとき、彼女が目を回していて、流石にやりすぎたと思った。





☆☆☆☆☆




演奏会までの日々はとても幸せだった。


あれこれと理由をつけなくても、ソフィーナと一緒にいられるからだ。


学園や城の音楽室で、演奏をしているときは、ずっと彼女の傍にいられる。


今日は城の音楽室での練習だった。


先生が帰ったあとの音楽室で、少しだけ彼女とイチャイチャした。


今なら使用人や護衛の目がないから、好きなだけスキンシップができる。


断っておくが俺たちはまだ、ハグとキスだけの健全な関係だ。


年明けには剣術大会が行われる。


年が明けたら、朝も放課後も剣術の練習に明け暮れることになる。


そうなったら大会が終わるまで、彼女と一緒にいられない。


だから今のうちに、彼女といっぱいイチャイチャしておきたかった。


ソフィーナと一緒にいられる時間が楽しすぎて、夕飯の時間に遅れてしまい、母上にお小言を言われてしまった。


早くソフィーナと結婚したい。そうすれば誰にも咎められることなく、彼女と一緒の時間を過ごせるのに。



☆☆☆☆☆



「今日はここで練習するのですか?」


演奏会の前日、彼女を学園のコンサートホールに連れて行った。


「本番の雰囲気に慣れてほしいから予行演習だよ」


明日の本番と違い、今はコンサートホールには誰もいない。


「私たちだけここで予行演習するのはズルくありませんか?」


「そこはほら皇族の特権だと思って受け入れてほしいな。皇族は成功して当然だと思われているから、他の生徒に比べてプレッシャーも大きいし、このくらいは優遇してもらわないとね」


「フリード様のおっしゃりたいこともわかりますわ。人の上に立つものはいつも完璧を求められますから」


やはり彼女も少なからず、プレッシャーを感じていたようだ。


「緊張してる?」


「公爵令嬢として十七年生きて参りました。大勢の前に立つのには慣れておりますわ」


「俺の婚約者は頼もしいね」


緊張をほぐしてあげようと思っていたけど、そんな心配はいらなかったようだ。


「さっそく練習を始めようか。明日は最高の演奏を披露して、皆をあっと言わせてやろう」


「はい」


それから約二時間ほど、俺たちは休みなく合奏の練習をした。



☆☆☆☆☆




二時間後。


「そろそろ休憩しよう、舞台の袖にお茶を用意させた」


「はい」


今日のお茶はアップルティー、お菓子はザッハトルテだ。


「ふたりきりだと思っておりましたが、使用人の方もいらしたのですね」


お茶を飲みながら彼女が小首を傾げた。


そういう仕草もいちいち愛らしいな。


「皇太子ともなると、単独では行動できないからね。使用人の他に護衛も何人かいるよ。見えないところに隠れているけどね」


完全に一人になれる時間の方が少ない。


「フリード様にはいつも護衛がついているのですか? もしかして先日、お城の音楽室で、その……キスしたときも……?」


ソフィーナの顔は苺のように赤い。


城の音楽室で彼女とキスをしたのは記憶に新しい。


口付けする度に顔を赤く染める彼女が可愛くて、なかなか離してあげられなかった。


彼女は、あれを他の人間に見られていたのか気になっているようだ。


「安心してソフィーナ。あのときは護衛を部屋の外に待機させていたから、君とのキスは誰にも見られてないよ」


彼女の耳元で囁くと、彼女は顔を紅葉のように赤く染めた。


ああ、可憐だなぁ! キュートだなぁ! 今すぐ結婚したいなぁ!!


彼女との結婚式は再来年を予定している。


ああ……! 皇族の婚約期間はどうしてこんなに長いんだ!!


俺は今すぐにでも彼女と結婚する心の準備ができているというのに!!


結婚式、ウェディングドレス、バージンロード、誓いのキス……妄想の中の彼女は真っ白な花嫁衣装を着て俺の隣でほほ笑んでいた。


彼女にロングトレーンドレスを着せたら似合うだろうな。上品で壮麗な感じになるだろうな。


お色直しではプリンセスラインのドレスを着せたいな。清楚で可憐な彼女にはぴったりだ。


ふたりきりの時にミニ丈のドレスも着せたい。彼女の美しく長い脚が見られるなんて俺は幸せものだ。


国中の仕立て屋を呼んで、いろんな型のドレスを作らせたいな。


バージンロードを歩く彼女はどんなに華麗なことだろう。


ウェディングベールを取った時、彼女はどんな顔をするだろう?


俺はウェディングドレスを着た彼女と誓いのキスを想像していた。


頬が緩むのが止められない。


それにしても誓いのキスというのは、少しだけエッチな儀式だ。


大勢の前で口付けを交わすなんて……!


ソフィーナは誰かにキスを見られていたかもと想像しただけで真っ赤になっている。


そんな彼女が、沢山の招待客の前でキスできるのだろうか?


ピュアな彼女のことだから、その場で気を失ってしまうかもしれない。それは困る。


結婚は神聖な儀式、そこで気を失ったのでは、彼女がみんなの笑いものになってしまう。


ソフィーナにも皇太子妃としての面子もあるだろう。なんとか彼女を守ってあげたい。


何かいい方法はないだろうか?


……そうだ! 彼女に今のうちに人前でキスすることに慣れてもらえばいいんだ!


「ソフィーナ、ちょっとこっちに来て」


「はい?」


俺は彼女の手を取り舞台の袖を出て、舞台の中央に移動した。


ここからは客席がよく見える。


それから、隠れて見守っている護衛の姿もチラチラ見える。


「フリード様、合奏の練習を再会するのですか?」


「違うよ。今日は別の練習」


「別の練習ですか?」


ソフィーナがオウム返しをして、小首を傾げた。


その仕草がキュートすぎて、俺の心臓は撃ち抜かれた。


彼女には千回ぐらい心臓を撃ち抜かれている気がする。


彼女の愛らしい姿を他人に見せたくないな。やっぱりやめようかな?


でも結婚式で彼女が気を失ったら大変だから、やっぱりやろう!


そう決意した俺は彼女を抱き寄せた。


こんな場所で抱き寄せられるとは思っていなかったのか、彼女は目を見開いている。


これからもっと驚くことになるんだよね。ごめんねソフィーナ。


「結婚式での誓いのキスの予行演習をしたい」


「はい??」


ソフィーナが目をパチクリとさせている。


「ソフィーナは人前でキスするのが恥ずかしいみたいだから、今のうちに慣れてもらおうと思って。結婚式で誓いのキスをした後で気を失ったら大変でしょう?」 


「えっ……と、お話についていけないのですが。結婚式はまだ先ですし、誓いのキスは教会でするものです。そ、それに今日は使用人や護衛の方が、近くにいるんですよね? このような場所で口づけを交わすなど私には……」


彼女はりんごのように真っ赤になっていた。


「本番は大勢の招待客や両親の前でするんだよ。今日よりもっと緊張すると思うよ? まずは少人数の前でキスすることになれておかないとね」


俺は彼女に逃げられないように、彼女を腕の中に閉じ込めた。


「ソフィーナ、病める時も健やかなる時も、永遠に君を愛すると誓います。君はどう? 病める時も健やかなる時も、永遠に俺を愛してくれますか?」


「えっ、あっ、はい。もちろんです」


「ありがとう。それじゃあ次は誓いのキスを」


「おっ、お待ち下さい! こっ、心の準備が……!」


彼女の言葉を呑み込むように、彼女に唇を重ねた。


しばらく経ってから唇を離すと、彼女は耳まで赤く染め、ふるふると小刻みに震えていた。


その後、彼女にポカポカと殴られた。


「ひどいです! フリード様、待ってと言ったのに!」


ポカポカと俺を叩きながらむくれる彼女も可愛い。


彼女が愛しくてたまらなくて、ぎゅーっと抱きしめた。


「フリード様、苦しいです!」


「ごめんね、しばらくこうさせて」


彼女のことが好きすぎて、しばらく腕の中から解放してあげられそうにない。



☆☆☆☆☆



その後、ソフィーナの機嫌を治すのに苦労した。


このままだと、演奏会で合奏してもらえないかも? と心配になった。


だけど彼女は俺が思っているよりも大人で、それはそれ、これはこれと割り切って、演奏会に出てくれた。


舞台に上がったソフィーナは、前日のキスを思い出したのか、最初赤い顔をしていた。


だけど、ピアノの前に座った彼女は冷静さを取り戻していた。鍵盤を叩く彼女の目は真剣そのものだった。


彼女は俺が思ってるよりも、ずっと度胸があって、精神が強いのかもしれない。


彼女の新たな一面を知って、惚れ直してしまった。


演奏会は大成功に終わったんだけど、彼女の機嫌はなかなか治らなくて、俺はひたすら彼女に頭を下げることになった。


そんな俺たちをみた周囲は、結婚したら俺が尻に敷かれると思ったことだろう。


彼女と結婚できるなら、尻に敷かれても構わない。むしろどんとこいだ!







もっと他にネタはなかったのか自分。

かっこよいフリードと、ピュアなソフィーナのラブラブな話を書くはずが、どうしてこうなってしまったのでしょう?


本日より、エンジェライト文庫様より電子書籍の配信開始しました。

そちらもお手にとっていただけると幸いです。



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