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番外編①「大切な人を迎えるための準備」電子書籍化記念


【フリード視点】



オンデンブルク王国の公爵家に嫁いだイザベル叔母上から「夫や娘と共に帝国に引っ越しする」という知らせが届いたのは九月の末のこと。


叔母上からの手紙には、ソフィーナとオンデンブルク王国の第一王子ライアンとの婚約が、第一王子の有責で解消されたことが記されていた。


叔父上は宰相の職を辞め、帝国で再就職するつもりらしい。


ソフィーナは王国の学園を自主退学し、帝国の学園に転入するつもりらしい。


手紙から、叔母上と叔父上とソフィーナが、王国にも王族にも心底失望している様子が伺えた。


叔母上を溺愛している父上は、叔母上が帝国に帰って来ることに歓喜し、俺は初恋の人と再会できることを喜んだ。


「こうしてはいられません、父上! ソフィーナたちを迎えるために、急いで城の改装工事をしなくては!」


「そうだな! 妹家族が暮らせるように城中を改装しよう!」


「庭に新しい彫刻を起きましょう!」


「世界一大きな噴水を作るのも良いな

!」


「城の廊下に飾ってある甲冑も新調しましょう!」


「庭園の華を全て入れ替えよう!」


俺は父上と城の改装工事の話で盛り上がっていた。


そんな俺たちを止めたのは、冷静沈着な母上だった。


「二人とも落ち着きなさい。義妹家族が到着するまでに数日しかありません。大規模な改装工事をする時間も、庭に噴水を作る時間もありません。現実を見てください」


母上はそう言って、俺たちの頭にバケツの水をかけた。


どうやら俺と父上はヒートアップしすぎて、頭から湯気が出ていたようだ。


父上(皇帝)に頭から水をかけて、許されるのは母上ぐらいのものだ。


父上のシスコンっぷりは国内外を問わず有名だった。


そんな父上と結婚してくれたのは母上だけだったので、父上は母上に頭が上がらないのだ。


皇帝といえど、重度のシスコンだと婚期が遅れるのだ。世の中は世知辛い。


ソフィーナが妹ではなくいとこで本当に良かったと思う。彼女が妹だったら、俺も重度のシスコンになってただろうから。


シスコン……で済めばいいけど。おそらく俺は彼女が妹だったら一線を越えていたと思う。


本当に彼女がいとこでよかった。


というわけで城の改装工事は諦め、使用人総出で城中の大掃除をすることになった。


使用人たちは年末でもないのに大掃除をさせられることになり、最初はぶーぶー言っていたが、特別ボーナスを出すと言ったら、おとなしくなった。


使用人が頑張ってくれたおかげで、城中ピカピカになった。


お城は綺麗になった。


次は叔母上たちが住む場所をどうするか決めないと。


宰相が王都に適当なタウンハウスを用意するという案を出したが、俺と父上で即却下した。


ソフィーナが帝国にやって来るのに、王都にタウンハウスを用意したら、彼女にたまにしか会えないじゃないか。


父上も俺と同じ考えだったらしい。


俺も父上何でもいいから理由を付けて彼らを、城の敷地内に住まわせたいのだ。


できればソフィーナの部屋は俺の部屋の隣にしたい。


叶うなら彼女の部屋と俺の部屋の間に寝室を設け、お互いの部屋から寝室に入れるようにしたい。


……だけどそれは、結婚はおろか婚約もしていない今の状況では難しいだろう。


父上と案を出し合い、冷静な母上にダメ出しされること数時間。


ソフィーナ親子を、今は使われていない離宮に住まわせることが決定した。


離宮は城の敷地内に建っているし、手入れをすればまだ使える。


そんなわけで今度は使用人総出で離宮の大掃除をすることになった。


彼らは城の大掃除が終わりホッとしていた。俺が離宮の大掃除を追加で命じたので、全員にめちゃくちゃ嫌そうな顔をされてしまった。


特別ボーナスを出すので許して欲しい。


使用人が頑張って掃除をしてくれたおかげで、離宮は一日で綺麗になった。


今まで離宮で使われていたカーテンや絨毯や家具を捨て、新しい物に変えた。


他の部屋の模様替えはすぐに終わったのだが、一番大切なソフィーナの部屋の模様替えが終わっていない。


彼女には城でゆっくりと寛いで欲しいので、壁紙一枚選ぶのにも時間がかかってしまう。


ちなみに叔父上の書斎のカーテンや壁紙を決める時は、一分で終わった。


なお父上は叔母の部屋の模様替え担当だ。


父上は叔母上の部屋の壁紙をピンクにし、カーテンと絨毯を桃色の花柄にした。


補足すると、叔母上の部屋は夫婦の寝室も兼ねている。


少女趣味な部屋に住むことになる叔父上が少しだけ気の毒になった。


「うーん、まずは壁紙を決めないとな」


俺はソフィーナの部屋の壁紙を何色にするかで悩んでいた。


壁紙の色を決めないと、カーテンや絨毯や家具の色を決められない。


彼女が寝起きする場所だ。適当には決められない。


「殿下、淡いブルーの壁紙はいかがでしょうか?」


使用人の一人が進言してきた。


「ブルーか……」


青は俺の瞳の色だ。自分の目の色の部屋にソフィーナが住んでくれたら嬉しい。


青系は清潔感があるが、寒冷色なので寂しい感じがしてしまう。


ソフィーナは婚約を解消してこの国にくるんだ。


彼女は深く傷ついているはずだから、冷たさを感じる色は避けたい。


「もっと彼女が元気になれる色がいいな」


「では黄色の壁紙はいかがでしょうか?」


「黄色か……」


「こちらのレモンイエローの壁紙など、若い女性の部屋に合うと思うのですが」


使用人の一人が壁紙のサンプルを見せてくれた。


「悪くないな」


黄色い壁紙を見て、彼女に元気を取り戻してほしい。


淡い黄色は俺の髪の色にも似ているから、彼女が俺の髪の色の部屋に住んでいる気分を味わえる。


「恐れながら殿下、黄色は隣国の王太子の瞳の色です」


黄色の壁紙が推していたのとは、別の使用人が教えてくれた。


「前言撤回、レモンイエローの壁紙はなしだ!」


ソフィーナは壁紙を見る度に、元婚約者を思い出すことになってしまう。そんなの気の毒すぎる!


「他に何か壁紙の色の候補はあるか?」


「緑はいかがでしょうか? グリーンにはリラックス効果があります」


また別の使用人が、緑の壁紙のサンプルを見せてくれた。


深い緑から明るい緑から淡い緑まで、いろいろなサンプルの切れ端が一枚の紙におさめられている。


緑の壁紙もいいな、ミントの葉の色なら彼女の気持ちも安らぎそうだ。よし、決めた。


「壁紙の色はミントグリーンで統一する」


緑の壁紙を見たソフィーナが、気持ちを落ち着けてくれたら嬉しい。


「承知いたしました」


使用人が職人に壁紙の色を伝えている。


「殿下、家具はいかがなされますか?」


壁紙を決めたら家具の種類や配置を決めなくてはいけない。


使用人が家具のカタログを見せてきた。


「家具の木目がよく分かる茶色の家具にしよう。ミントグリーンの壁紙とも相性がいいはずだ」


俺はカタログを見ながら、タンスやテーブルや椅子のデザインと数と配置を指示した。


「かしこまりました」


俺の指示を受けた使用人が、家具の手配にかかる。


ソフィーナは祖国を離れたばかり。慣れない異国での暮らしに戸惑うことも多いだろう。


せめて部屋の中では寛いでほしい。


さてと、部屋の模様替えは終わったし、次は……。


「殿下、ソフィーナ様に贈るドレスはいかがいたしますか?」


今度はドレスのカタログを持った使用人が破ってきた。


ソフィーナも祖国からいくつかドレスを持ってくるだろう。だがそれだけで足りるとは思えない。


王国と帝国では流行のドレス型やデザインも違う。


彼女に流行から外れたドレスを着せて、恥をかかせるわけにはいかない。


……というのは建前で、本音は俺がソフィーナにドレスをプレゼントしたいのだ。


彼女に俺の好みのドレスを着せたいのだ。


「パーティやお茶会で着るものは彼女が到着してからオートクチュールで作るとして、彼女が到着したときにクローゼットをドレスや装飾品でいっぱいにしておきたい」


クローゼットを開けた時、彼女はどんな反応をするだろうか?


想像しただけでワクワクする。


「既製品でもいいからいくつかドレスを用意しよう。俺が直接選びたいから商人を呼んでくれ、青や水色や紺色のドレスを多めに持って来るように伝えるんだ。それから赤と黄色のドレスはいらないから持ってこないように伝えるように」


彼女に元婚約者の髪と瞳の色のドレスを着せたくない。


「ドレスに合わせて、帽子や、靴や、小物も揃えたい。できるだけ多くの装飾品を持ってくるように伝えてくれ。こちらも赤と黄色の服や小物はいらないから、持ってくるなと伝えろ」


「承知いたしました」


彼女が来たとき、クローゼットの中をドレスでいっぱいにしておきたい。


ただそれだと、彼女が祖国から持ってきた荷物が入らなくなるな。


寝室とは別に彼女の衣装部屋が必要だな。


「この部屋の隣に彼女の衣装部屋を用意してくれ、彼女が祖国から持ってきた荷物が入らないと困る」


「かしこまりました」


彼女には何不自由なくこの城で暮らして欲しい。



☆☆☆☆☆



数時間後。


商人が馬車数台に山ほど荷物を積んでやってきた。


彼らの荷物は使用人によって部屋に運ばれた。


装飾品を箱から出して、テーブルに並べていく。


ドレスをまとったマネキンがところ狭しと並べられる。


商人の持ってきた服はどれも美しく、デザインが洗練されていた。


成長したソフィーナが、ここにあるドレスや装飾品をまとったらさぞ神々しいだろう。


ドレスをまとった彼女を想像しただけで顔がやけてしまう。


俺は商人から勧められるままに商品を購入した。


気がつけば、商人が持ってきた商品のほとんどを買い取っていた。


ソフィーナの部屋のクローゼットは、今日買ったドレスや装飾品でいっぱいになってしまった。


寝室のクローゼットに入りきらなかった分は、衣装部屋にしまった。


ソフィーナが到着したらオートクチュールの服を作らせたいのに、このままでは衣装部屋もいっぱいになってしまうな。


もう一つ衣装部屋を作らなくては。


開いてる部屋はまだあったかな?


俺は空き部屋を探すため廊下に出た。


廊下を歩いていると、ある部屋の中から父上と母上の声が聞こえてきた。


そこは父上が叔母上のために用意した部屋だった。


俺はそっと中を覗いた。


「陛下、そんなに買ってどうするのですか? 衣装部屋に入りきりませんよ」


「七年振りにイザベル()が帰って来るんだ! 色とりどりの服を揃えておきたいじゃないか! 衣装部屋を増築するから! 頼む! もう少し買わせてくれ!」


「では、陛下のお小遣いは50パーセントカットということで」


「そんな殺生な……!」


父上は叔母上のためにドレスを大量に購入して、母上にたしなめられていた。


つくづく血は争えないな。


父上に空き部屋を確保される前に、ソフィーナの第二の衣装部屋を作っておこう。


俺は叔母上の部屋の前から離れ、空き部屋探しを再開した。


ふと窓の外を見ると、月が輝いていた。


彼女も同じ月を眺めているのだろうか?


「早く会いたいよソフィーナ。君に見せたいものが沢山あるんだ」


彼女がこの国を訪れたら、手を繋いで一緒に月を眺めたいな。


彼女と一緒にバラ園を見に行きたいし、街の散策もしたいし、ピクニックにも行きたい。


「今度こそ、君に愛してるって伝えられるかな?」


七年前のようにもたもたしていて誰かに取られるのは嫌だから、彼女に再会したらその日のうちに告白しよう。


断られてもめげずにアプローチし続けよう。


俺の想い人が城を尋ねて来たのは、この翌々日のこと。


想像以上に美しく成長した彼女に、俺は胸を撃ち抜かれた。


そこから沢山、沢山アプローチして、なんとかプロポーズをOKしてもらえた。


諦めずに一途に思い続けて良かった。




本編で出番が少なかったフリード視点の話を書いてみました。

番外編1〜3は書籍版未収録です。


本日より、エンジェライト文庫様より電子書籍の配信開始しました。

そちらもお手にとっていただけると幸いです。

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