獄潰し ~下着泥棒とおしゃれ泥棒の違い~
獄潰し ~下着泥棒とおしゃれ泥棒の違い~
一人の少女がベランダへと続く引き戸を開ける。そこには先日分の洗濯物が干されているはずだった、いや、きちんと干されて入るのだが今まさに収穫手前の果物宜しくその一つに手を伸ばしているやからがいるのだった。正確には、ブラジャーにだが。
「し、下着泥棒!?」
「失敬な!」
今頃ほっかむりをしている泥棒なんていないだろうに。そんな男は全身タイツを纏っており、背中には泥棒さんご愛用の緑色の風呂敷をつけている。
「僕は断じて下着泥棒ではありません、僕はおしゃれ泥棒です!」
言い切った感じがあったがその手にはしっかりと女性ものの下着が握られているので十人が見たって十人が突っ込むに違いない。もちろん、少女はその中の一人だ。
「で、でも下着を……」
「しっ!!」
「むぐっ」
少女の部屋にそのまま転がり込んで少女の口を手で押さえる。しばらくの間そんな犯罪まがいの状態で二人とも静かにしていた。
「……危ないところでした。もう少しで僕が警察に捕まるところでしたよ」
「……」
つかまっていいのではないのだろうか?いや、つかまるべきだろう。そう思った少女だったが静かにしておいた。何をされるかわからないからだ。
「まず、下着泥棒は下着しか、正確には女性物の下着しか盗みません。男物の下着が盗まれたという話は聞きませんからね」
「ま、まぁ、そうでしょうね」
そらぁ、そうだろう。ブリーフに手をかけて逃げ出す下着泥棒を見たことがない、聞いたことなんてなおさらない。第一に下着泥棒を見つけること自体難しい。
「最近は盗まなくてもお金で変える時代だそうですし」
「え?」
「それで、おしゃれ泥棒はおしゃれを盗みます」
「そのまんまですね」
「ええ、われわれはわかりやすいのがモットーですから」
少女はここで一つ、というより当初からの疑問を聞いてみることにした。
「あの、あなたはおしゃれ泥棒なんですよね?」
「ええ、おしゃれを盗むおしゃれ泥棒です」
「でも、リボンとか他の服とか……おしゃれそうなものも外に干してたと思うんですけど?」
おしゃれ泥棒はふっと笑ってこういったのだった。
「……残念ながらわれわれはその本人がおしゃれだと思っていても周りから見たらぜんぜんおしゃれじゃない、というより似合っていないものをおしゃれだとは思いません」
「ええっ!?」
「身分相応のおしゃれを盗む、それがわれわれおしゃれ泥棒です……現に、証言DVDも持ってきていますから」
後ろの風呂敷からノートパソコンを取り出してなにやら操作を行う。すると、画面にモザイクがかけられた人物が現れる。
『あ~、あの子?うんうん、本人おしゃれしているみたいだけど時代遅れ?っておもってるしぃ~似合ってないって言ってあげるのぉ、めちゃ大変!っていうより、いえないいえない(プライバシー保護のため音声を変えております)』
「……泥棒のくせして音声とかモザイクとか…」
「ええ、ちゃんとしますよ……で、あなたの行動をここ一週間見させていただきましたが今回われわれの厳密な審査を通り越したのがこのクマさんパンツだと判明したのです。あ、では僕はこの後も用事がありますのでこれで失礼します」
手を振って身軽に窓から出て行ったおしゃれ泥棒を見ながら少女は闘志を燃やすのだった。
「……音声変えてたけど……あいつに違いない!」
――――――――
「え~、泥棒は昔からいますが……」
なぜか泣きながら壇上で挨拶している校長先生とそれをくすくす笑いながら見ている生徒たち。
「…あの校長、ヅラだったのか……」
「きっとおしゃれ泥棒に盗られちゃったのよ」
「可哀想にね~」
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「香、あんた私のことをそんな目で見てたのね?」
「はぁ?」
「おしゃれじゃないってあんたのほうがおしゃれじゃないじゃない!」
「意味わかんないこと言わないでよ!」
「それなら……あんたのところにおしゃれ泥棒、来たっていうの?」
「……」
「はっ!やっぱり何も盗まれてないのね?私のほうがまだましだわ!」
「なんですってぇ!!」
こうして、おしゃれ泥棒は友情というものも盗んでいったのだった。
まぁ、たまには泥棒物もいいでしょう。しかし、真似してやったらつかまりますよ。下着を盗むのは言わなくてもわかるでしょうが犯罪です……けど、男の下着って盗まれても絶対事件にならないような……。