小6の女の子に告白されたけど、事案になっちゃうから断ったら、法律上は問題ないってどういうこと???
「誠人くん、一緒に帰ろ!」
「あ、はるみちゃん」
大学からの帰り道。
小学校の校門前を通りかかると、今日もはるみちゃんが、天使みたいな笑顔を振り撒きながら駆け寄ってきた。
ピンクのランドセルが眩しい。
はるみちゃんは俺の家の近所に住んでいる、小学校6年生の女の子だ。
何故か俺ははるみちゃんから異様に懐かれており、いつも校門前で俺のことを待っていて、一緒に帰ろうと誘ってくれる。
はるみちゃんは一人っ子らしいので、俺のことを兄のように思っているのかもしれない。
俺も同じく一人っ子なので、はるみちゃんのことは妹みたいに感じている。
「うん、一緒に帰ろっか」
「やったあ!」
俺ははるみちゃんと仲良く手を繋いで歩き出した。
小学校の先生方にも俺のことは伝わっているので、みなさん微笑ましい目で見てくれる。
むしろ不審者からのボディーガード代わりになって、助かるとまで思われてるかもしれない。
「今ね、理科の授業でアサガオ育ててるんだけど、私のアサガオがクラスで一番成長早いんだよ!」
「へえ、それは凄いね」
無邪気な笑顔でそう話すはるみちゃんを見ていると、思わず俺まで笑顔になってくる。
そういえば、俺が幼稚園の時に仲が良かった女の子の名前もはるみちゃんだったということを、ふと思い出した。
小学校に上がる直前に、そのはるみちゃんは引っ越してしまってそれきりだけど、何となく雰囲気も似てる気がする。
つくづく『はるみ』という名前に縁のある人生だ。
「ん? どうかしたの、誠人くん?」
「あ、ああ、何でもないよ」
「ふうん? ――あ! クレープ屋さんだ!」
「え?」
急にはるみちゃんが目を爛々とさせながら声を弾ませたので目線を追うと、そこにはクレープ屋のキッチンカーが、甘い匂いを漂わせていた。
ふふ、はるみちゃんは甘いものに目がないからな。
「買ってあげようか、クレープ?」
「えっ!? い、いいのッ!?」
はるみちゃんはこれでもかというくらい、目を光り輝かせている。
いろんな意味で眩しいぜ。
「これくらいお安い御用だよ。一応俺は20歳だからね」
「やったあ! 誠人くん大好き!」
「はは、ありがと」
はるみちゃんにぎゅっと抱きつかれる。
クレープ屋のおねえさんが若干不審な目で俺を見てくるが、いや、俺は別にロリコンじゃありませんよ!?
「んふ~、美味ひぃ~」
人気のない小さな公園のベンチに座りながら、クレープを頬張るはるみちゃん。
クリームがぷにぷにのほっぺにくっついちゃってるけど、その姿さえも愛らしい。
俺の大学の友達にも超がつくほどシスコンの男がいるが、ちょっとだけそいつの気持ちがわかる気がする。
「はふぅ、美味しかった! ホントありがとね、誠人くん!」
「どういたしまして」
あっという間にクレープを平らげたはるみちゃん。
依然としてほっぺにクリームはついたままだが、可愛いからもう少しだけこのままにしておこう。
「大好きだよ、誠人くん!」
事あるごとにはるみちゃんは大好きだと言ってくれる。
こんなに愛されたら、兄代わりとして光栄だな。
「ありがとう。俺もはるみちゃんのことは大好きだよ」
「本当にッ!? 私たちは両想いなんだね!」
「はは、そうだね」
「じゃあ今すぐ結婚しよ!」
「……ん?」
途端、はるみちゃんが興奮した面持ちで、俺に迫ってきた。
お、おや?
「だって私たちは両想いなんでしょ!? 両想いの二人は結婚するものだよね!?」
はるみちゃんの表情には、鬼気迫るものさえ感じる。
「あ、あー、まあ、お互い大人だったらそうかもしれないけど、はるみちゃんはまだ子どもだから、ね?」
ひょっとして思春期特有の、恋愛に興味津々というやつなのだろうか?
それで身近にいる俺に、疑似恋愛的な感情を抱いてしまっていた、とか?
……だとしたら思わせぶりな態度を取っていた俺にも、責任はあるな。
ここは大人として、ちゃんとフッてあげないと。
「……はるみちゃんの気持ちは嬉しいけど、日本じゃ女の子は16歳にならないと結婚はできないんだ。だから――」
「私はもう大人だもん!!」
「――!?」
は、はるみ、ちゃん……?
「……やっぱり誠人くんは、あの約束覚えてないんだね」
「え?」
あの約束……?
「……幼稚園の時に約束してくれたじゃない。私のことをお嫁さんにしてくれるって」
「――!!」
その瞬間、はるみちゃんの姿が、幼稚園の時に仲が良かったはるみちゃんにダブった。
――確かに幼稚園の時、俺ははるみちゃんとそんな約束をした。
もちろん幼稚園児特有の口約束に過ぎなかったが、当時の俺は、俺なりにはるみちゃんに対して真剣だった。
それが、まさか……。
「はるみちゃんは、もしかしてあのはるみちゃんなの……?」
「っ! やっぱり覚えててくれたんだねッ!」
はるみちゃんは目に涙を浮かべながら、俺の手をぎゅっと握ってきた。
「で、でも、これはいったい……」
あのはるみちゃんは俺と同い年なんだから、今は20歳の大人なはずだ。
だが俺の目の前にいるはるみちゃんは、どう見ても小学生にしか見えない。
たまに幼児体型の大人もいるけど、これはそんなレベルじゃない。
そもそも本当に20歳なんだとしたら、未だに小学校に通っていることの説明がつかないじゃないか……!
「……私が幼稚園の時に引っ越したのは、私を冷凍保存するためだったの」
「――!!?」
冷凍……保存……!?
「誠人くんには秘密にしてたんだけど、私はあの頃、凄く重い病気に罹ってて」
「えっ!?」
目線を俺から逸らしたはるみちゃんは、とつとつと語り出した。
「当時の医療技術じゃ治せない不治の病だったらしいから、未来に望みをかけて、私の身体は冷凍保存されたの」
「そ、そんな……」
確かにそういう人が世の中にいるという話は聞いたことがあったが、まさか自分の身近でそんなことが起きていたとは……。
「でも今から5年くらい前に、奇跡的に治療薬が発明されてね、私はそのお陰で、こうして現代に蘇ったってわけ! 今じゃこの通り、元気いっぱいだよ!」
「はるみちゃん……」
はるみちゃんはニヒヒと笑いながら、両手で力こぶを作るポーズをした。
……くっ!
「ご、ごめんねはるみちゃん……! 俺、そんなことになってるとは全然知らなくて……! 俺だけこんなのうのうと、普通に生活して……!」
視界が涙で滲む。
はるみちゃんはずっと俺のことを忘れないでいてくれてたってのに、俺はなんて情けないやつなんだ……!
「ううん、いいの。私がこんなことになってるなんて、普通誰も思わないよ」
「っ! ……はるみちゃん」
はるみちゃんは聖母のような笑顔を浮かべながら、俺のことをそっと抱きしめてくれた。
……嗚呼。
「だから、ね? 約束通り結婚してくれるよ、ね?」
「……え?」
はるみちゃんはそそくさと、ピンクのランドセルの中から一枚の紙を取り出し、俺に差し出してきた。
見ればそれは、紛うことなき婚姻届であった――。
既にはるみちゃんの欄には、小学生とは思えないくらい、綺麗な字で名前が書かれている――。
え、えーっと……。
いや、もちろんはるみちゃんに対する俺の気持ちは本物だよ?
俺だってできれば、はるみちゃんと結婚したいとは思ってるよ?
でも、戸籍上は20歳でも、今のはるみちゃんが小学生なのもまた事実。
これは…………アリなんですかね?
――教えて偉い人!!
お読みいただきありがとうございました。
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