6話 書庫
_メルシエル邸書庫。
そこには歴代の当主達が世界各地から集めた多くの本が収められており、壁一面に整然と本が並んでいる様子は圧巻の一言である。
備え付けられた一人がけの椅子とテーブル。
そこに一人、一心不乱に本を読んでいる幼子の姿があった。ルシエルである。
どうにか伯爵から書庫の利用許可をもぎ取ったルシエルはその日以降、書庫に入り浸る生活を送っていた。なんなら、書庫に住んでいると言っていい。
そのせいで周囲からは本の虫だ、読書狂いだと呼ばれるようにまでなってしまったが...
「ルシエル様!いい加減休憩なさってください」
そんなルシエルに声をかける存在が1人。
この辺りでは珍しい黒い髪に少し切れ長の瞳。現代日本なら大和撫子と言われていただろう和風美人。
彼女の名はライカ、メルシエル家のメイドである。
入室許可こそ出たが、1人で書庫に入ってはならない、という条件を伯爵から付けられたルシエルのお目付け役としてメイドの中で最も歳若い彼女に白羽の矢がたったのだ。
初めこそ新人には荷が重い大仕事にビクビクしていた彼女だったが、ルシエルが寝食を忘れて本を読み漁る姿を連日見続けたためか当初の遠慮や不安はどこえやら、今ではすっかり世話焼きが板についている。
「あとちょっとなんだ。ここを読んだら休憩にする」
そうルシエルが返事をすれば、ライカはこれでもかというほどに目を吊り上げた。
「ルシエル様が先程そうおっしゃってから、もう1時間も経ちますよ!」
瞬きの間にルシエルの手から本が消えた。ハッとして見上げるとライカの手には先程までルシエルが読んでいた本が納まっていた。それに未練がましく伸ばした手をピシャリとたたき落とし、ライカはため息をひとつ零す。
「...せめてなにかお飲みになってください。ルシエル様が書庫にいらしてからもう4時間も経っていますから」
そう言うライカの顔から心配の色が見て取れ、ルシエルは休憩をとるためにしぶしぶ居間へと向かうのだった。