5話 父と子の攻防
「ダメだ」
夕食の時間。
知識といえば本、と思い立ったルシエルが書庫の利用許可を貰うべく口を開くけば、メルシエル伯は取り付く島もなくその提案を切り捨てた。
「なぜですか、父上」
まさか断られるとは思っていなかったルシエルは思わず理由を聞いた。そんなルシエルをチラリと見てメルシエル伯は口を開いた。
「あそこには危険な魔法書も多く置かれている。子どものお前にはまだ早い」
この話はもう終わりだ、と言わんばかりの伯爵にルシエルはむっとした表情を浮かべた。
「子どもじゃないです!もう3つになりました!」
「馬鹿者、3歳は世間一般では子どもといういうのだ」
ビシりと伯爵のツッコミがルシエルに入った。
お前からもなにか言え、という風に伯爵は2人の様子を微笑ましげに小さく笑って見ていた夫人を見やれば、返ってきた言葉は伯爵の望むものとは正反対のものだった。
「まあまあ、旦那様。いいではありませんか。ルシエルが勉強をしたいと言っているのですから」
「だが...」
「誰かお目付け役をつければいいでしょう?」
そんな母の援護にルシエルはぱっと顔を明るくさせ、父を見た。その期待に満ち満ちた顔に伯爵はしばらくの後諦めたように、条件があると言ってため息をついた。
巷で厳格やら頑固やらと言われるメルシエル伯爵が折れた瞬間であった。