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I Have a Dream

湯を上がれば酒宴である。

それも至極簡単、形式張ったテーブルマナーのうるさい食事などではなく、バイキング方式の立食スタイルであった。

ナンブ・リュウゾウはイズモ・キョウカの側にあり、鼻の下を長くしている。


イズモ・キョウカの友人であり、ナンブ領民の茶色娘は、私の妻であるアヤコとワインをグビグビと飲んでいた。

かなりイケる口らしい。

アヤコのペースについていって、なおかつ乱れるところが少しも無い。


そんな私の元へ、王子に恋心を寄せるバキ少年が近づいてきた。


「ヤハラさま、アーサー王子が……」


うむ、と言ってアーサー王子を探す。

目立たぬよう、アーサー王子は会場の隅に佇んでいた。


「あぁ、ヤハラくん。来てくれたかい?」


「いかがなさいましたか、アーサー王子」


「うむ、余も王室のあまりの堕落っぷりを憂い、第三軍のみなに担がれてはみたものの、あまりに敵が強大でな……」


確かに。

下級貴族総出プラスイズモ伯爵家。

これだけの戦力で第四王子を玉座に据えるなどというのは、かなりムシが良すぎる。


どれだけムシが良いか? 読者諸兄の世界のシステムで例えてみよう。

一応の目安として数字を挙げておくが、実際にはそこまでの戦力差はないと考えたいし、あくまで例、例えとして聞いていただきたい。


一部上場企業ワイマール社員、ナンブ・リュウゾウくん。

彼は年収七〜八〇〇万円の裕福な生活をしている。

しかし子爵男爵を雇っている営業所長の伯爵さまは、年収七〜八〇〇〇万円である。


ケタがちょいと違ってくる。

そしてそれらをまとめる支社長が侯爵さまと考えよう。

ここもゼロをひとつ加えて七億八億の年収だ。


そうなると本社の大幹部に例える公爵家。

七〇億八〇億と考えよう。

そして経営者の国王陛下、これはさらにゼロが余計につく。


この年収というものを戦力と換算してみれば、とんでもないことだというのが御理解いただけよう。

つまり王室の考えを代弁するならば、「大それたことなど考えず、七〇〇万円の年収で満足しておけ」ということだ。

まあ、実際の戦力差はここまでは無い……と考えたい。


あるいは死ぬほど商いを頑張ればひっくり返せる戦力差と考えたい。

というか、公爵侯爵連中がなんとかしてアーサー王子になびいてはくれまいか? と思案に暮れているところだ。

というのも、順当にゆけば王位継承権というものは第一王子が筆頭である。


すなわち力を持っている高級貴族たちは、第一王子に娘を嫁がせたいと終始べったり。

とてもではないが庶民の人気だけで第四王子になびいてくれるとは思えないのが現状である。

しかしこのまま公侯爵が第一王子を玉座に据えれば、悪政は必至である。


なにしろ自分たちの利益最優先で、下級貴族たちにタダ働きをさせる連中だ。

褒美をまったく与えないような連中である。

絶対にロクなことにはならない。


そこで私は考えた。

まだ継承していない玉座。

そしてまだ開かれていない春の大戦おおいくさ。


この大戦さでまずは第三軍が大手柄を立てること。

それがまずはの第一条件である。

その上での玉座に就いた第一王子の悪政。


それを退位された上皇さまに叱責される第一王子。

その隙きに第四王子であるアーサーさまを推しに推す。

……いかん、あまりにも現実味がなさ過ぎる。


「まあ、途方も無い計画ではありますが、しかし王子! あきらめてはなりませぬ! この国の窮状を救うは英雄アーサー! これをおいて他に無し!」


思わず熱弁を奮うが、なにもかもがまだ未然のことである。

第一、圧政に苦しめられる民からして、私の妄想とも取られかねないのだから。

いかんいかん……つまりはまた私のひとり相撲ということではないか。


アーサー王子王位御即位。

それはいま現在、まだ早い話なのである。

土台、万が一にしてもアーサー王子が国王陛下の覚えめでたく玉座に座ることになったとしよう。


それを公侯爵連中が素直に認めるだろうか?

いま現在彼らは第一王子にベッタリなのだ。

それが手の平を返したように、アーサー王子になびいてくれるだろうか?


それをさせるには武力が必要である。

そう、新王に従わせるだけの武力が。

先の話の戦力差というのは、少々極端な例えだったかもしれない。


しかしあの例えは現実なのである。

大領地が欲しい。

人と金を蓄えた大領地が必要だ。


人は金を生む。

金は数を揃えてくれる。

そして数は力になる。


その力をアーサー王子に与えれば、きっと高級貴族たちもなびいてくれる。


「余はこの度みなに担がれて思うところがあった」


アーサー王子がもらす。


「私にはいま、夢がある。みなが豊かに、高級貴族などというものに搾取されることのない国を作りたい。すべては余を支えてくれる民のために……」

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