災厄来たる
季節は冬。
そしてワイマール王国は雪に包まれていた。
南の領地であろうと、北の領地であろうと。
雪は等しく何者にも降り注いだ。
その中を私たちナンブ・リュウゾウ親衛隊は王都へ進軍していた。
笠をかぶり、藁の長靴を履いて、黒の外套を羽織って腰には二本差しで。
そして珍しく、馬を連れている。
ガタイの良い、頑丈なソリ引き馬だ。
しかしソリは壁も屋根も拵えられている。
中には火鉢が据えられていた。
イズモ・キョウカを迎える特注馬ソリである。
そうだ、私たちは今、王都の学園へ冬休みに入るイズモ・キョウカを出迎えに出撃しているのだ。
送り先はもちろんイズモ伯爵領地。
そこで一夜を明かし、我らがナンブ領へとお迎えするのだ。
一見すれば小娘ひとりのためにワイマール王国最強の部隊が出撃するのは、いかにもナンセンスと映るであろう。
しかし救国の剣士と謳われるナンブ・リュウゾウの血を残すことは、王室にあらせられるアーサー王子にとっては最重要案件とまでされ、王室までからんでこようとするほどの大事であった。
そのような思惑渦巻く複雑な事情の中、私たちは王都の門をくぐる。
異様な集団の来訪に衛兵たちは気色ばんだが、事情を説明してナンブ家の家紋を示せば、たちまち王都の人となれた。
これはアーサー王子の指示によるものであろう。
私たちは賑わう王都の大通りを闊歩した。
そして学園前。
ナンブ・リュウゾウはあんぐりと口を開けた。
ワイマールもまた、何も言えなくなっていた。
学園の正門前、傘をさしたイズモ・キョウカが微笑みながら、小さく手を振っている。
しかしその隣では、別な女子生徒が満面の笑みを浮かべている。
先日私が発見した、不気味な娘である。
「谷山浩子のニャンニャンしてねぇ〜♡」とかほざいていた、褐色の異端児だ。
「キョウカどの、お待たせしましたかな?」
「いえいえ、先程門の前に着いたところですわ♡」
ウソつきやがれ。
傘からずいぶん雪が落ちてんだろ。
「して、そちらの娘は?」
ナンブ・リュウゾウが訊く。
イズモ・キョウカは即答する。
「わたくしのマブダチですわ♡」
「アタイ、トヨム! フジヒラ・トヨムってんだ! リュウゾウさま、よろしくな!」
「おう、元気がいいな! それでキョウカどの。トヨムさん同伴かね?」
「はい、トヨムさんはナンブ領出身ということで、御一緒させていただければと」
「ほう、ナンブの者とあらば俺にとっては家族同然! 御家族の元まで送りましょう!」
「いえいえそこまでは……今宵はイズモに一泊していただいて、それからナンブ領までお送りいただければ」
「それはまた、キョウカどのの行動と同じですな」
「甘えさせていただいて、よろしいでしょうか?」
「もちろんですとも! 御学友ともどもナンブ・リュウゾウが送って差し上げましょう!」
ということで、イズモ・キョウカと友達は馬車の中。
火鉢にあたりながら温々と乙女トークに花を咲かせている。
ナンブ・リュウゾウは寒風吹きすさぶ中、徒歩である。
殿、馬に跨がられては? と誘っても、「君主たる者、家臣と苦楽を共にせんでなんとするか!」と眉を釣り上げるだけ。
私が叱られるのは納得いかないが、それでもナンブ・リュウゾウは雪を踏みしめている。
……そうか。
本当ならば馬ソリの中でイズモ・キョウカとヨロシクしたかったのに、アテが外れたから不機嫌なのか?
そうだよな。
娘ふたりなかよし同士。
そこにお前が割り込む訳にゃいかねぇもんな。
あ、今回短いですね。