衝撃と告白
完成済みの話から区切りになる部分で投稿してるけど、区切りが短すぎて毎回短い投稿になってしまう。
(なんだったんだろう、あの感触は)
翌日、僕は葉月君の胸を突き飛ばした時の感触を思い出しながら学校へ向かっていた。
葉月君は男だ。男のはずだ。だけど手に残る感触は? 硬い胸板に触れるまでの僅かの間に感じたあの柔らかさは?
昨日からそのことで頭がいっぱいだ。
顔にアザを作って帰った昨日の夜も上の空で、何があったのかと心配する父さん達になんと言って誤魔化したのかさえ覚えていない。
手を何度も握っては開くを繰り返し感触を反芻しているうちに学校の玄関口に着いた。
とりあえず勉強に専念しようと頭を切り替えて靴箱を開けると、一枚の手紙が足元に落ちてきた。
そして、その名前の無い手紙を読んだ僕は今まで考えていた事が全て頭から飛んでいってしまった。
『放課後、女子校舎裏に来て下さい。お話したいことがあります』
放課後、僕は期待の心持ちで女子校舎裏に来ていた。
手紙には女子校舎裏を待ち合わせ場所に指定していた。女子校舎は当たり前だけど女子しか使わない。そんな場所を待ち合わせ場所に指定するのも女子しか有り得ない。
(僕がこれまで告白してきた女子の誰かかな)
一度はフラれたけれど、もしかしたら後になって僕の事が気になった女子の誰かが手紙で呼び出したのかもしれない。
勿論要件は、僕への愛の告白。
僕は期待に胸膨らませながら待っていたが、目の前に現れたのは、今まで一度も会ったことの無い女子だった。
「……」
彼女は僕の前まで歩いてくると、緊張の面持ちのまま姿勢を強張らせ止まってしまった。
「えっと、僕を手紙で呼びだしたのは君?」
彼女はコクリと頷くと、また同じ姿勢で黙ってしまった。
(誰だろう?)
僕よりも少し背が低くて、女子としては標準的な体格をしている。運動部にでも入っているのか肌は小麦色に焼けているが、黒くて綺麗な長髪は大人しめな印象を与える。
僕が今まで告白してきた女子の中にはこんな娘はいなかった。
「僕たち、どこかで会ったことあったっけ」
コクリ、と彼女が頷いた。
改めて見てみるけれど、やっぱり僕はこの娘に会った記憶が無い。
「それで、要件は?」
「あ、あの……」
初めて聴くその震える声は今にも消えそうな程か細かった。そして彼女はまた口を噤んでしまった。
(埒が明かないなぁ)
興奮に沸いた頭が冷えてきた。僕はこの様子をよく知っている。異性を手紙で呼び出すも、なかなか要件を言えずに相手を待たせてしまう。
僕が好きな女子に告白する時だ。
こういう時は相手から要件を当てられてしまうと自分も相手の言葉に乗っかる形で要件を伝えられる物だ。
だから、僕は彼女に助け舟を出すことにした。
「もしかして、僕に愛の告白……とか?」
彼女の体が一瞬震えた。
図星だったのだろう。彼女は俯きワナワナと震えた。
(ほら、あとちょっと)
心の中で応援していると、彼女は意を決した様に「はぁっ」と息を吐き口を開いた。
「……ゴメン、聖。やっぱ無理」
そして彼女は、いきなり僕の鳩尾にボティーブローを叩き込んだ。
「なっ……え……?」
何が起こったのか判らない。告白されると思ったらいきなり殴られた。
体をくの字に折り、低い体制から彼女を見上がると、彼女は言い放った。
「バッカじゃないの!? なんであたしがアンタを好きにならきゃいけないのよ! あの時のこと他の人に言ってないでしょうね」
「え、え? あの時のこと? 何のこと? 君は一体……?」
「ちょっとアンタ、ホントにあたしが誰か判らないわけ!?」
「だって会った事、無いよね?」
「服と髪型が少し違うくらいで判らなくならないでよ! ちょっと上着貸して!」
そう言うと彼女は僕の上着を無理やり奪って羽織り、ゴムを取り出し、長い黒髪を首の後ろ辺りで束ねた。
「ほらこれで判るでしょ!」
「え! そんな……え!?」
確かに、僕は彼女に会ったことが何度もあった。だけど、目の前に彼女がいてもそれはなかなか受け入れられなかった。
だって、彼女は、僕と会っている時、“彼”だった。
「あたしよ! 葉月双憂よ!」