第一王子の苦悩
僕は王妃の息子で長男、まぁ順当に言って王になるために生まれた男だ。
生まれたからにはその役割を担うように育てられてる。
疑問に思ったこともなかった。
婚約者は隣国の姫であるアリシア姫。当然一度もあったこともない。
噂によると僕より背が高いとか。
肖像画は、迫力ある美人だった、と思う。
うん、あまり覚えてないや。
彼女は今、婚姻のためにこちらに向かう準備を進めてる。
半年後には結婚式だ。
僕の婚姻は当たり前だが国々の均衡を保つため、子をなすことが一番の仕事で。
そこに愛や恋、美醜関係なし、だ。
僕が自分の感情で何かをなすことがあったら大問題だしねぇ…
第一王子以外の子供達は、一応仮婚約者があてがわれる。
要は、僕の役に立つ駒になるのか、もしくはきちんとスペアとして成り立つのか。
どっちに転んでも、僕の役に立たないとみなされたら病気になってしまうだけなんだけどね。
その、弟の試験でもある婚約者選び。
仮婚約者は、このままいけば婚約者になる、わけではないのだ。
勿論彼女たちにも益にならない話ではない。
これは仮婚約期間中、王家が責任をもって令嬢教育、妃教育をした証明になるので貴族令嬢とし箔付けになる、その上王家が責任をもって新たな婚約者を決めるため無駄ではないのだ。
もちろん、そのまま仮婚約から正式な婚約をした例もたくさんあるし、病死してしまった婚約者の穴埋めに王家の養女にしてから他国に嫁いだって例もある。
そう、彼らは一応すべての釣書きと肖像画を貰い、精査し、自分がどのように動かないと王室にとって不利益か、どうかを考えないといけないのだ。
これは、いわば試験。
12歳から15歳までの3年間、貴族が通うミニ社交界なる学園で様々な人間社会を学んでいくのだ。
これをクリアして初めて王家としての婚約が正式な婚約になる。
これは、勿論側近の質をも問われるわけで。
だから、生半可な事では選ぶことも出来ない、はず、なのだけど。
学園のパーティで弟が婚約破棄を言い出した、らしい。
そして真実の愛をみつけた、といって男爵令嬢と結婚するといいだした、そうだ。
意味が分からない。
そしてぐちゃぐちゃになったパーティは、学園の学長である叔父が急遽取りやめにして騒ぎを収束させた、そうだ。
慌てた従者の直接の報告に側近だけでなく、僕付きの護衛も頭に「?」以外が見つからない顔をして首を傾げた。
近衛は驚いたものの、首は傾げなかった、すごいな。
勿論、僕も首を傾げた。
いや、待って。
側近は何してたの?
侯爵令嬢は仮であって、正式な婚約者ではないんだよ?
弟が選んだのは、よく言えば鷹揚な、悪く言えば愚鈍なコロンボ男爵の令嬢。
え?それ何の役に立つ???
思わず口に出して言いそうになって、冷静を取り戻す。
「…残念だね」
弟は知らないだろうが、弟の仮婚約者であったマーガレット侯爵令嬢は、既に王家の養女として3つ隣のネザード国の侯爵家に嫁ぐことになっている。
彼女の学園でのカリキュラムはネザードの習慣、言葉を習うために準備されていたのだから。
そう、もう王家には嫁に行かせる年齢の女性が皆無なのだ。
なにせ僕の妹たちは生まれ落ちたと同時に婚約者が決まるのだから。
そして弟、彼の本当の婚約者に選ばないといけなかったのは、同じネザードの王家の娘であるミシェル姫。ここは養女ではなく正当な王家の血筋を入れたいのだから。
そして、ネザードにしては不幸にも、わが国にとっては幸運にも先代までの乱世でネザードの王家がガタガタだったため、ミシェル姫の婚約者は戦死している。
そのため、今現在彼女の隣が空席なのだ。
ま、御年6歳の彼女を選ぶのは弟の頭では難しかったけど、今の力関係でどこと関係を結べば一番王家にメリットがあるかを考えれば簡単だったはずだ。
釣書きだってたった30枚くらいしかなかったはずだ。
当然男爵令嬢が入ってるはずがない。
僕は素早く計算する。
同腹の弟が今11歳。
今回のネザードの姫は早めに囲い込みたい。
しかしネザードの姫との婚姻時に弟が役立たないなら難しい。
でも手をこまねいてるわけにもいかない。
腹立ちまぎれにつぶやいた。
「…本当に、残念だよ」
この件で父に相談するために席を立たないと、僕まで怒られる。
弟の婚約者選びは、弟の試験、その結果やその先の見通しの判断は、僕の試験。
同腹の弟の仮婚約者は、誰だったっけ?僕は頭を抱えながら父である王に謁見の願いを従者に伝えた。