97 十三歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
現在十三歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
本当に恥ずかしいわ。この体勢。
それよりデュークは手の方は大丈夫なのかしら。
けど、まぁ、皆無事で良かったわ。
「デューク様……」
リズさんの声が聞こえた。
残念な事に今リズさんがどんな表情をしているのか分からない。
……おろしてくれないかしら。
「デューク様、私、地面におりたいのですが」
「だめだ」
「リズさんとお話ししたいのです」
私がそう言うと、不服そうな顔をしながらデューク様は私を丁寧に地面におろしてくれた。
私がおりたのと同時にデューク様は自分の上着を私の肩に掛けてくださった。
「僕もおりるよ。今だけだから」
ジルもそう言ってヘンリお兄様の腕からするりと地面におりた。
ヘンリお兄様も上着を脱いですぐにジルに渡した。
ジルの服はかなり悲惨な状態だった。
それを見ているとどんどん腹が立ってきた。腸が煮えくり返る。
「アリシア……大丈夫か?」
アルバートお兄様は開口一番そう言った。
私は衝撃で言葉を失ってしまった。
貴方の妹は貴方の隣に立っている女の子に殺されそうになったのですわ。
何を言っているのかしら。
もしかして状況がまだ理解できていないのかしら。
「リズさん、どうしてあそこで私を止めたの?」
リズさんは怯えた顔で私を見ている。
あら、リズさんに怯えられるなんて……私も凄いわね。
その顔で私を見てくれる日を待ち望んでいたのよ。
「……人を殺すなんて」
暫く沈黙があった後、リズさんの口から出た言葉はそれだった。
人を殺す?
「私を殺そうとしていた人達よ」
私は軽蔑と悪意に満ちた目でリズさんを見た。
私はともかく、ジルを罵倒しあんな目に遭わせた奴らよ。
「それでも……殺すのはよくないわ!」
リズさんは声を振り絞って私にそう言った。
「人の命を奪うなんて」
リズさんが私を非難するような目で見る。
彼女は本当に聖女って役割を全うしているわね。
「もし彼らが死んでいなかったら今度はリズさんが殺されたかもね」
私は口角を上げながらそう言った。
「おい!」
エリック様が私の言葉に真っ先に反応する。
彼らと話をするのって物凄く疲れるのよね。
「何ですの?」
私はエリック様を睨んだ。
「リズの言っている事は間違っていないだろう。誰であれ命を奪うのはだめだ」
「騎士でもですか?」
「争うの自体が良くない」
エリック様は私の目を真っすぐ見ながらそう言った。
その目は私を侮蔑する非難の目だ。
リズさんの考えに完璧に……洗脳されたわね。
聖女ってもしかして国を滅ぼすんじゃないかしら。
「私、自分の身を自分で守れない女は嫌いですわ」
私はリズさんの方を向きながら吐き捨てるようにそう言った。
アルバートお兄様とアランお兄様の目は怒りに満ちていた。
それでも私は毒を吐き続けるわよ。
だって私は悪女ですもの。
「誰かに守ってもらう? 確かにリズさんの周りには沢山のナイトがいますものね」
「アリ、やめろ」
アルバートお兄様が私を睨みながらそう言った。
あんなに妹に優しかったアルバートお兄様が私にこんな目を向けるのね。
「アルバートお兄様も人を殺すのに反対なんですよね?」
「勿論だ」
「家族が殺されかけても?」
「……ああ。人を殺すのは反対だ」
一瞬言葉に詰まったがアルバートお兄様は強い口調で答えた。
「じゃあ、今すぐその腰に差している剣を捨ててください」
私は満面の笑みでそう言った。




