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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「一人目は庭師、二人目はこの家の侍女、三人目も確かこの家の侍女だったような」

「ちょっと待ってください」

 私は淡々とヘンリお兄様から出てくる言葉に頭が追い付かなかった。

 ある日突然庭師が消えて、急に見なくなった侍女達はヘンリお兄様に殺されていたって事?

 ……嘘でしょ。

「合計で何人の人を殺したのですか?」

「七人」

 表情を変える事無くお兄様はそう言った。

 七人……白雪姫に出てくる小人達を全員殺したって事になるわよね。

 結構多いわね。私なんて人一人殺していないのに……。

「動機は何ですか? それぞれ違うのですか?」 

 ヘンリお兄様が理由なく人を殺すなんて想像できないもの。

「全員一緒の理由かな」

 そう言ってヘンリお兄様が苦笑した。

 ジルが読んでいた本を閉じ口を開いた。

「この家の財産目当てで働いていた人達を殺したの?」

「まぁ、そんなとこ」

 彼らが消え始めたのって数年ぐらい前からよね。

 どうして財産目当てなんて分かったのかしら。

「最初の庭師は毒のある薬草を栽培していたんだよ、ポールに見せたら猛毒だって教えてくれた。侍女達は毒を紅茶に入れようとした。他の奴らも全員財産だけでなく俺の家族を殺害しようとしたんだ」

 急にヘンリお兄様の顔が険しくなった。

 もし、ヘンリお兄様が気付かなかったら私達は死んでいたって事よね……。

「殺すつもりがあるって事は殺される覚悟でやってるって事だろ?」

 ヘンリお兄様はそう言って嘲笑した。

 あら、今の顔、まるで悪魔みたいな顔でしたわ。

「アランお兄様やアルバートお兄様は知っているのですか?」

「ああ」

「殺したのはヘンリお兄様だけですの?」

「まあな」

「どうしてですの?」

「二人とも殺すのには反対していたからな」

 ヘンリお兄様の瞳がアランお兄様とアルバートお兄様を軽蔑していた。

 殺すのに反対……ああ、多分彼女のせいね。

 家族を殺そうとしたのにアランお兄様もアルバートお兄様も彼女の考え方を選んだってわけね。

「キャザー・リズのせいか」

 ジルが呆れた口調で呟いた。

 リズさんは人を殺す事に絶対反対しそうだもの。

「これで俺はアリとジルとは一緒にいていいよな?」

 ヘンリお兄様は軽く笑いながらそう言った。

 私はジルの方に目を向けた。

 ジルの目は覚悟を決めた目をしていた。

「僕の秘密はね……」

 ジルがヘンリお兄様の方を真っすぐ見る。

 ジルの緊張が私達に伝わってくる

「僕は……貧困村出身なんだ」

 ジルは眉間に皺を寄せながらそう言った。

 とても苦しそうに見えた。

「そうか」

 ヘンリお兄様はそう言ってジルに近づいた。

 そして優しくジルの頭を撫でた。

「教えてくれて有難う」

 柔らかい口調でヘンリお兄様はそう言った。

 ジルの目が少し潤んでいるのが分かった。

 あら、ジルの表情が久々に少年らしい顔になっているわ。

 なんだかジルとヘンリお兄様の関係が……言わないでおきましょ。

 けど、まぁ、この二人なら顔も整っていてバランスもいい感じだし……結ばれたとしてもきっと周りは温かい目で見守ってくれるはずよ。

「なぁ、じゃあ、アリはジルとどこで出会ったんだ?」

 ヘンリお兄様が不思議そうな目で私を見る。

「貧困村ですわ」

 私がそう言うと、ヘンリお兄様は固まった。

 逆にそこ以外にジルと会うところがないですわ。

 するとヘンリお兄様が突然笑い出した。

 何がそんなにおかしかったのかしら。

 一体どこに笑うところがあったのかしら。

「やっぱりアリはすげえな」

 ヘンリお兄様はそう言ってまた笑い出した。

「僕もそう思う」

 ジルもそう言って顔を綻ばせた。

 なんだかよく分からないけど、私、褒められているのよね?

 じゃあ、まぁ、いっか。 

 しばらく私の部屋はヘンリお兄様の明るい笑い声で包まれていた。

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― 新着の感想 ―
アニメを機に読み始めました。 アリシアサイドの小気味いいやり取りが凄く好きです。 ジルとヘンリの関係性も楽しみです。
[一言] >「やっぱりアリはすげえな」 ヘンリ、いいな。 私も自分に正直でいたい。
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