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「こちらです」
水色の刺繍が入ったドレスを着た優しそうな侍女が私を案内してくれる。
かなり豪華なドレスよね。
多分、侍女の中でも位が随分上だと思うわ。
というか、私はどうしてこんな所にいるのかしら。
私は今、国王様のお住まい……王宮にいるのよ。
どうして私はここに呼び出されたのかしら。
国王陛下に呼ばれるなんて絶対にろくなことがないわ。
今度はリズさんの奴隷になれなんて言われるんじゃないかしら。
……それは断りましょ。
それにしても国王陛下ってこんなにも豪華な所に住んでいるのね。
天井は高すぎるし、長い廊下に高級品が置かれているし、見ているだけで疲れるわ。
「ここです」
私は私の三倍ぐらいある扉の前まで連れてこられた。
扉の前には衛兵が二人並んでいる。
この扉をここまで大きくする理由が知りたいわ。
それにどうして衛兵がいるのかしら?
厳重に警備されていて、こんなに大きい扉って事は……ドラゴンとか?
「では私はこれで失礼します」
侍女はそう言って綺麗にお辞儀をして去って行ってしまった。
ああ、私もここから去りたいわ。
この扉の奥にはドラゴンではなく国王様がいらっしゃる事は分かっているもの。
ドラゴンの方が百倍ましだったわ。
衛兵はゆっくり大きな扉を開ける。
相当重い扉なのね……。
私の気も同じぐらい重いわ。
私は心を静めて大きく息を吸った。
「失礼します」
私は軽くお辞儀をして足を進めた。
なんて大きい部屋なのかしら。五十メートル走出来るわよ。
意味のない長いテーブルの一番奥には国王様が座っている。
それから五大貴族のトップに……リズさん!?
どうしてリズさんがここにいるの?
それにデューク様の隣に座っているなんて。
普通、一番端に座るはずでしょ?
お兄様達や、ゲイル様、カーティス様、エリック様、フィン様を差し置いてデューク様の隣に座っているなんて、流石ヒロインだわ。
やっぱり、王子様の隣はヒロインなのね。
それで、これは一体何の会議かしら?
「アリシア、君に一つ聞きたいことがあるんだ」
……嫌だわ。この空気は絶対に私にとって得な事が一つもないもの。
隣にジルがいたら心強いのに。私一人で来いなんていうから……。
「デュラン国が経済破綻した」
低く威厳のある国王様の声が私の耳に響いた。
経済破綻?
あら、私が予想した通りだわ。
「何故経済破綻になると分かった?」
ジョアン様が私を凝視しながらそう言った。
……私、デュラン国が経済破綻になると思いますなんて一度も言った事ないわよね。
ジョアン様って私の心を読めるのかしら。
「三年前にアリシアが黒板に書いただろう? 魔法学園の旧図書室の黒板にラヴァール国を傘下に置く方法でデュラン国を買い取るって。だからアリちゃんは経済破綻になる事を予測してたのかなって思ったんだよ」
カーティス様は私に優しくそう言ってくれた。
そういう事だったのね。
とりあえず、ジョアン様が人の心を読める人じゃないって事が分かって安心したわ。
これで私はこのお偉い方達の前で心置きなく私の悪女っぷりを発揮できるわ。
「何故それが分かったのだ?」
ジョアン様っていつも聞き方が怖いのよね。
私が十三歳の女の子だって事を分かっているのかしら。
こんな所に私一人で来た度胸をもっと認めて欲しいわ。
私は小さく深呼吸してから口を開いた。
「生産力と購買力の矛盾ですわ」