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私達は普通に校舎の中に入り歩いていた。
なんて注目を浴びているのかしら。
素晴らしい展開だわ。想像通り!
この皆が訝しげに私を見ているっていうのが最高よ。
自分が好かれていないって事が分かるもの。
けど、噂って一瞬で広がるのね。女の子達ってお喋りだから助かるわ。
「アリシア様が数名の女子生徒に暴言を吐いたんですって」
「しかも震えて腰を抜かしてしまった人もいたのよね」
「少し魔法が出来るからって調子乗らないで欲しいわ」
「それにリズ様に酷い事を言ったらしいのよ」
「お兄様達とは全く似ていないのね」
もう、悪口を言われているの?
私ってばやっぱり優秀なのかしら。
悪女になる素質があったみたいだわ。
「それにあの男の子は誰ですの?」
「可愛らしいわよね」
「確かにそうだけど、アリシア様と一緒にいるのよ?」
「きゃ、睨まれたわ」
睨まれただけで、悲鳴を上げるなんて。
この学園の人達は国のトップになるのよね?
私はジルの方に目をやった。
あら、物凄い形相ね。可愛い顔が台無しだわ。
まぁ、それでこそ一人前の悪女の助手ね。
……っ。
急に誰かに思いっきり腕を引っ張られた。
「アリシアッ!」
ジルが私に叫んだのを最後に見て私はそのまま転送魔法で違うところに飛ばされた。
転送魔法使えるって事はレベル80を習得しているって事よね。
私は瞼をゆっくりを開けた。
本棚に囲まれて真ん中に大きい机がありその周りにはソファが置いてある。
会議室かしら?
私は自分の腕を掴んでいる手を見た。
大きくて綺麗な手……。男性の手って感じだわ。
それに凄く良い匂いがするわ。
私はゆっくりその手の主の顔を見た。
……デューク様?
この距離はまずいわ。
彼の色気で私が倒れそうよ。というか、デューク様ってこんなに大きかったかしら。
心臓が爆発しそうだわ。
落ち着いて、私。悪女はこんな事には動じないのよ。
「ここは一体どこですの?」
「生徒会室だ」
「そうですか。それで私に一体何の用ですの?」
デューク様はリズさんの事が好きなのよね?
どうしていきなり私を攫ったのかしら。
まさかリズさんに酷い言葉を掛けたから?
愛は凄いわね。
私、このまま殺されるのかしら。
「どうして俺の父親の依頼を断らなかった?」
私は突然のデューク様の言葉に固まってしまった。
依頼? それってもしかしてリズさんの監視役の事かしら?
でも、どうしてそれをデューク様が知っているの?
これって知られたらまずいわよね。
大変だわ。私、早速やらかしてしまったのかしら。
デューク様は私の目をじっと見ている。
これはきっと私が嘘をついたら一瞬でバレるわね。
「どうして知っているのですか?」
「情報なんて知ろうと思えばいくらでも知れる」
流石優秀な王子様ですわね。
リズさんに近づこうとしている人は把握済みってわけね。
「それでデューク様は私をどうしたいのです?」
私の質問にデューク様は固まった。
それからゆっくり目線を下げて私の胸元にあるダイヤモンドを見ている。
……もしかしてネックレスを返せなんて言われるのかしら。
まぁ、しょうがないわよね。高価なものだし。
デューク様がダイヤモンドを持ち上げた。
このまま引きちぎられるパターンかしら。
まさに悪女が王子にされそうなシーンだわ。
それを体験できるなんて光栄だわ。
でもどうして少し寂しそうな顔をしているのかしら……。
もしかして私にこのネックレスを贈った事への後悔の念が押し寄せてきたのかしら。
デューク様は少しかがんでそのダイヤモンドに優しく口づけした。
「えっ?」
私は思わず声を出してしまった。
予想外な事に頭が追い付かない。
えっと、今のは何かしら?
自分の心臓の音がうるさいわ。顔が火照っているのが自分で分かる。
これは、一体どういう事?
リズさんに近づかせないように何か魔法をかけたとか?
けど、自分が贈ったアクセサリーに口づけするのはそんな理由じゃないわよね。
私は鈍感女じゃないのよ。冷静に考えて。
「可愛いな」
そう言ってデューク様が私の頭に手をポンと置いた。
それは反則技ではないでしょうか。私を殺すおつもりですか?
可愛いって私に言ったのよね?
私しかこの部屋にいないわよね?
心臓の音がさっきよりもはっきりと聞こえる。
というかデューク様、いきなり私と距離を詰めすぎじゃないですか?
デューク様が誰にでもこんな事をしているとは考えにくいですし、デューク様って私に好意を抱いているのかしら。
そういう事よね?
じゃあ、リズさんとはどんな関係なのかしら。
というか、私とデューク様がくっついたらまずいわよね?
段々冷静になってきたわ。そうよ、デューク様はリズさんとくっつかないといけないのよ。
世の中で一番の悪女とこの国の王子がくっつくのはかなりまずいわ。
「役ではなく本当に私は性格が悪いのですわ」
私はそう言って生徒会室を飛び出した。