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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 私はレベッカをベッドに置いた後、くるりと回ってジルの方を見た。

「どうしてにやけてるの? 気持ち悪いよ」

「気持ち悪いとは失礼ね」

「で、どうしたの?」

「ジル、貴方、魔法学園に行けるのよ。一応、私の助手としてだけどね」

 ジルは固まったまま私を見ている。

 嬉しいのかしら?

 何かリアクションをとってくれないと分からないわ。

「ここ……、から、出られ……、る?」

「そう言う事よ」

 瞳が潤んでいるのが分かる。

「これで、私はちゃんと約束を守ったわ。後は貴方がどう生きてい……、っ」

 私が話し終える前にジルが私の胸に飛び込んできた。

 私の腰にしがみつき肩を震わしている。

 びっくりしたわ。こんな時ってどうすればいいのかしら。

 こんな状況になったのが初めてだからどう対処すればいいのか分からないのよね。

 私はウィルおじいさんの方をチラッと見た。

 ウィルおじいさんはゆっくり私に頷いてくれた。

 誰かにこんな風に抱きつかれるのって悪くないわね。

 私はジルを優しく抱きしめ返した。

 小さな震える体を愛おしく思った。

 たまには悪女もこんな感情を持ってもいいわよね。


 ジルは泣き疲れたのか、そのまま寝てしまった。

 目が腫れているのが分かる。

 かなり泣いたのね。

 私はジルの頭を撫でた後、ウィルおじいさんの方を見た。

 ここからが本題なのよね。

「ウィルおじいさんはまだ王宮へ戻りたいと思う気持ちはあるのですか?」

 私の質問にウィルおじいさんの顔が急に険しくなった。

 嫌な事を思い出させてしまったのかもしれないけど、私は出来る事ならウィルおじいさんに王宮に戻って欲しいと思った。

 そしてその知恵をこの国の為に使って欲しかった。

 ウィルおじいさんみたいな聡明な人をこの村でこのまま死なせたくないわ。

 私なら必ずウィルおじいさんを王宮に戻してみせるわ。

 自分を過大評価しているって事は十分に自覚しているわ。

 それでも私はウィルおじいさんに王宮に戻って欲しいと思っているの。

「今は……、もう思っていない」

「え?」

「アリシアがレベッカに救世主になれと言った時にな、わしはこの目で貧困村がどう変わっていくのかここで見たいと思ったんじゃ。まぁ、目はないがな」

 そう言ってウィルおじいさんは目尻をクシャっとさせて笑った。

 私の言動がウィルおじいさんの王宮へ戻りたいって気持ちをなくしてしまったんだわ。

 どうしましょ。私のせいだわ。

「アリシア、自分を責めるな」

 また、ウィルおじいさんに私の心を読まれたわ。

 本当にいつもどうして分かるのかしら。

「アリシア、君がわしの為に行動してくれようと思うその気持ちがどんなにわしを幸せにしていると思う? アリシアがその気持ちをわしに持っていてくれる限り、わしはまたこんな貧困村で明日を生きようと思うんじゃ」

「違う、違うわ。私はそんな綺麗な気持ちを持っていないわ。自分の利益の為に動いているのよ。ウィルおじいさんに王宮に戻って欲しい理由はその知恵を利用したいからよ」

 私は誰かに希望を与えるなんて事をしないのよ。

 そんなの悪女の役割の中に入っていないもの。

「なら何故わしがここに残る事に対して自分を責めたのだ?」

 ウィルおじいさんが私に隙を与えないように話す。

「わしの知恵など今ここで沢山聞いて、自分のものにしてそれをアリシアが王宮で言えば良いだろう?」

「そんな卑怯な真似は絶対にしたくないですわ!」

 私は思わず声を上げてしまった。

「そんな事をしたら私が人間として終わってしまいますわ」

 ウィルおじいさんがいつものように私の頭を優しく撫でてくれた。

 私の心がどんどん落ち着いていく。

「アリシア、わしはここにいる」

 ウィルおじいさんの顔は見えなかったけど、その言葉だけははっきりと私の耳に残った。

 今日の私は随分と感情が荒れているわね…悪女としてまだまだだわ。

「私のエゴを押し付けてしまって、ごめんなさい」

 そう言って私は深く頭を下げた。

 悪女なら絶対にこんな事はしないわ。そんな事は百も承知よ。

 けどウィルおじいさんは私の唯一の理解者だもの。失いたくないのよ。

 今日はもう悪女として赤点の日だわ。けどそれも今日だけよ。

 頭を下げるのはこれで最後よ。


 私はジルの唇にお父様から頂いた瓶をつけて、中に入っていた薄ピンク色の液体をジルの口に流し込んだ。

 寝ているのを起こしてしまうのは可哀想だもの。

 ジルが全部飲んだのを確認して、私はジルを持ち上げた。

 ジルが起きたら絶対に嫌がりそうだけど、お姫様抱っこが一番安全なのよね。

 私はジルの為に持ってきたマカロンをポケットから出してウィルおじいさんに渡した。

「今度はレベッカと食べて下さい」

「有難う」

 そう言ってウィルおじいさんは温かい笑顔を私に向けてくれた。

「今の時間は皆寝ているから大丈夫だと思うが、念のためこれを被っていきなさい」

 そう言ってぼろぼろのマントを私に被せてくれた。

 私は軽くウィルおじいさんにお辞儀して、家を出た。

 出た瞬間、貧困村の人達が地面に寝転がっていた。

 家の前で寝ているの? 私だったら交代で起きて見張るわ……。

 私は彼らを起こさないようにしてジルを抱えながら霧の方へ駆け抜けた。

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