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ここ二日間は離宮よりも医務室で過ごした。
そして、明日パーティーだわ。
離宮での生活は息が詰まるからと、つい医務室に長居してしまっていた。
患者たちに初心者でもできる運動や、筋トレのメニューなど考えて実践もしていた。
怪我をしない程度に私とミアとジャスミンの監視下で彼らは体を動かす。
まだまだ動きは硬いけれど、継続は力なり。そのうちできるようになるでしょう。
私はここを去らなければならない。だから、私がいなくなっても、元の生活に戻らないように私は書物に色々と書き残す。
ストレッチの仕方、人との会話を欠かさないこと、清潔感のある環境を保つこと、そして、日光にあたり健康的な運動を心掛けること。
そんなことを書いていると、離宮に戻っている暇などなくなっていた。
建物の外で患者たちが体を動かしているのを見ながら、私は必死に腕を動かしていた。
ふぅ、と一息ついたところで、ロディスさんが私に向かって声を発した。
「こんなすぐにこれほどの変化が現れるとは……」
ロディスさんは私の隣で椅子に座り、私と共に患者を眺めていた。
誰でも思いつきそうなことなのに……。
心の病に関しての対処法が、視界に入らない場所に閉じ込めておく、だったのが大きな間違い。
精神病については、まだまだ理解がなく、特に研究されているわけではない世界だということを改めて実感した。
「医者も来なくなった」
「……どうしてです?」
私はロディスさんの言葉に首を傾げる。
「いじけているのだろう。自分が解決しなければならない問題を突如現れた少女に解決されてしまったからな」
「……けど、私がここにいたことなんてすぐに忘れられてしまうわ」
私がそう言うと、ロディスさんは一呼吸置いてから口を開いた。
「いや、覚えている」
その確かな声に私は思わず目を丸くして、ロディスさんをじっと見つめた。
「ほんの僅かな時間でも君は患者たちの心に残っているだろう。……少なくともわしは忘れない。記憶に残る者は時間を長く共に過ごしたからではない。その人が己の人生にどんな影響を与えたか、だ」
まだ全員が全員明るい感情を取り戻したわけではない。暗く沈んだ表情をしている人たちも半分ぐらいいる。……が、はじめとは、まるっきり空気感が違う。
あの重苦しかった空気が随分と晴れやかになった。
ロディスさんは話を続けた。
「どんな道であれ、最初の一歩を踏み出すのが極めて難しい。……それを君は成し遂げた。賞賛されるようなことではないと思っているかもしれないが、わしらからすれば変革だ。君が踏み込んだ一歩のおかげでわしらは道を知ることができた。後はその道を進んでいくだけ。そして、それはわしらの仕事じゃ」
「……別にロディスさんは心は元気なのに」
私はロディスさんの言葉にそう言って彼に向かって思い切り微笑んだ。
そこまで考えてくれているロディスさんの気持ちが嬉しかった。




