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シーツを全て太陽の元に干し終えて、私は建物の中の様子を見に行った。
「まだこの辺り汚れていますよ~」
医務室に入った瞬間、ジャスミンの大きな声が聞こえてくる。ミアは監視役のように、全体の様子をずっと見渡していた。
……二人とも役に徹しすぎてない?
二人のおかげか、患者全員が動いている。
さっきまでとは全く違う空気を私は吸い込む。
埃っぽくないし、清らかな空気が漂っている。床はピカピカで、窓ガラスの濁りも消えている。窓辺のカーテンが軽やかに揺れており、見違えるほど医務室は綺麗になっていた。
患者たちの顔は、どこかやり切った雰囲気を纏っていた。陰気な表情から爽やかな表情へと変わっている。
……心というのは、意外と単純なものだ。
閉鎖的な空間に閉じこもっていたら、そりゃ気持ちも滅入る。
「あ、アリシア様! ミアさん、アリシア様ですよ!」
私に気付いたジャスミンがミアの方へと声をかける。ミアもすぐに私に気付いて、二人とも私の元へと駆け寄ってくる。
「シーツの洗濯はもう終わったんですか?」
ジャスミンの言葉に私は「ええ」と頷く。
「こっちは?」
「もう終わりです。意外と皆ちゃんと動いてくれました。……貴族だから、舐めた態度取られるのかと思っていたのですが、なんか真面目でした。やっぱり、落ち込んでいる時こそ動いた方がいいんですね。忙しい人ほど病まない、なんて言われている理由が分かった気がします」
ジャスミンは医務室を見渡しながらそう答えた。
「有閑階級は暇を持て余しているものね」
そう呟いて、私もこの部屋をもう一度見渡した。
これだけの人数がいたから、こんなにも短時間で終えることができたのかもしれない。
「……あ、お医者さんは?」
私は思い出したようにそう言うと、ミアが答えてくれた。
「自分の持ち場を掃除しているはずです。器具とか色々……、彼のことは一旦放っておいておきましょう。……次はどうします?」
「全員外に出てもらって、もう一度ストレッチね」
「……またですか?」
「普段運動していない人たちがいきなり掃除……じゃなくて、運動したんだもの。ちゃんとストレッチをしておかないと」
掃除を運動と言えるのは、普段全く運動をしていない者たちの特権かもしれないわね。
ミアは部屋の中にいた人たちを全員建物の外に出した。ミアとジャスミンも患者に続いて外に出る。
私も外に出ようとした次の瞬間、「少し二人で話がしたい」とデューク様が建物の中に入って来た。




