701
「……誰の仕業だ?」
デューク様の怒りのこもった声に私は思わず鳥肌が立った。
地面からも冷気を感じると思い、視線を下げると私の足元辺りまで地面が凍り始めていた。
「デューク様、もう終わったことなので」
私は内心焦りながら冷静な面持ちで声を出す。
……デューク様のお母様は毒殺で亡くなった。だからこそ、彼にとって、私が毒を盛られていたという事実は相当なものだったのかも。
「度を超えた」
デューク様の怒りは顔を真っ赤にしたり、息が荒くなったりしない。
その低く重い声は背筋に悪寒が走るほど冷たく、私まで恐怖を抱くほどだった。
こんなにも怒っているデューク様を見るのは初めてかもしれないわ。
「この城ごと潰せばいいか?」
「落ち着いてください」
私はもう一度デューク様にそう言った。……が、私の声は届いていないようだった。
魔力がどんどん強まっていくデューク様に私は魔力で制した。
「デューク様!」
私の声がこの場の空気を割いた。
デューク様の魔力はかなり強かったが、なんとか抑えることができた。黒紫色のオーラが凍った場所を覆い、なんとか元に戻す。
デューク様が本当に我を失っていたら、私は抑えられなかった。
改めてデューク様の魔力がとんでもなく強いものなのだと認識する。
お互い全力で戦うことにならなくて良かった。本当にこのお城を壊してしまうところだったわ。
私は小さく息を吐いて、デューク様を真っ直ぐ見つめた。
私が大きな声を出して、デューク様の力を無理やり抑えたことに驚いているようだった。目を丸くしているデューク様に私は一歩近付いて、優しくお腹に当てる程度に拳を入れた。
本当は軽く平手打ちをしたかったのだけど、身長が届きそうにもなかったから、鳩尾パンチよ。
「私のために怒ってくれてありがとうございます。……ですが、ここに来た目的を忘れないでください」
私はそう言って、デューク様のお腹から手を離す。
デューク様はさっきよりも随分と落ち着いた様子で私を見ていた。
掃除用具もすっかりと元通りになっている。私はデューク様を見つめながらフッと口角を上げた。
私のことを本当に想ってくれているのだと伝わる。その気持ちが私は嬉しかった。
「それに……私一人であの離宮ぐらいなら制圧できますわ」
私の笑みにつられて、デューク様も表情が緩んだ。
「相変わらずいい女だな」
「…………ところで、平民たちの方はどうなっているんですか?」
デューク様に褒められるのがどこかむずがゆく、私は話を逸らした。
その甘い視線が心臓に悪いのよね……。心拍数も上がっちゃうし……。
「こっちは大丈夫だ」
デューク様はそれだけ言った。
……デューク様がそう言うのなら大丈夫よね。変に言及とかしないでおこう。
私もなんとかしないと……。医務室で油を売っている場合じゃないけれど、一度引き受けてしまったからには最後までやり通さないと。
そうして、私たちは掃除用具を持って、医務室へと戻った。