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その様子に医者は「おおッ」と感嘆の声を漏らす。
「……すくな」
思わずそう口にしてしまった。あまりの掃除用具の少なさに目を疑った。
ボロボロの雑巾が二つ、今にも壊れそうな箒が一本、モップのようなものが一つ……。
なんてやる気のない掃除用具入れなのよ。
私は掃除用具に魔法をかけて、使えるように元に戻す。
「おおッ、魔法と言うものは実に便利だな」
また感動した様子で医者はまじまじと綺麗になった掃除用具を見つめる。
「……他は調達してくるわ」
私がそう言うと、医者は不思議そうに口を開いた。
「まさか彼らに部屋を掃除させるのか?」
「そうよ」
「……魔法で綺麗に」
「そんな誰のためにもならないことするわけないでしょ」
私は医者の言葉を被せるようにそう言い放った。
確かに一瞬でこの建物を誇り一つないピカピカの医務室にすることはできる。だけど、そんなことしても、意味がない。
一度そんなことをしてしまうと、「されて当たり前」って考えを生むことになるし、私はここに長く滞在しない。自分たちで自分の場所を綺麗にさせないと
私は慈善活動者じゃないの。
「これからは動ける患者に部屋を掃除させてください。何か役割を与えて。何もせずに寝ているだけの生活なんてものを送らせないで」
「わ、分かった」
医者は私の言葉に力強く首を縦に振る。私の言葉がキツイせいか、医者は緊張しているように見える。
……頑固で意地悪な医者じゃなくて良かったわ。
ここで説得を手こずりたくなかったもの。時間は限られているんだから、次々と動かないと!
「じゃあ、それを外に運んでいてください。私は他に必要なものを揃えます」
私は医者にそう言い残して、急いで建物を出た。
建物を出ると、凛とした美しい青色の瞳が私をじっと見つめていた。
「……デューク様」
私は彼の名を呼んだ。