表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
697/710

697

 私は彼のどこか悲しみに覆われた瞳を見て、声を発した。

「貴方の腕がいいから、他の病気を患っている方や怪我を負った方がいないんでしょ」

 医者は私の言葉に少し固まって、すぐに朗らかに笑った。

「…………君に任せてみよう」

「ありがとうございます」

 私は少し頭を下げてお礼を言った。

「じゃあ、まずは先ほど言った通りに皆さん立ってください」

私は顔を上げて、もう一度患者たちに向かって声を出す。

「なんで私たちが貴女の言うことを聞かないといけないのよ……」

「放っておいてちょうだい」

「よそ者の言うことなんて聞くものですか」

「俺らに指図するなんて、百年早いんだよ、小娘!」

 ……意外と野次が少ない。

 もっと、色々と言われると思っていたのに……。よっぽど気力を失っているのね。

 医者と看護師は難しい顔をして、彼らを見ている。

「『立て』と言っているんです。聞こえませんでしたか?」

 私はこの場に圧をかける。魔力で場の空気が変わる。

 私は善人なんかじゃない。時には恐怖心すらも私は利用するわよ。

「もう一度言います。立てる者はその場に立ちなさい」

 私の声に従って、徐々に患者たちはその場に立ち上がる。毛布にくるまっていた人もベッドから出る。

 ……ようやく動いてくれた。

「貴女、名は?」

「ジャスミンと申します」

 看護師はそう名乗った。

「ジャスミン、椅子を外に一つ用意して」

「……分かりました」

 一瞬不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐに彼女は動き出してくれる。

「みんな、外に出て」

 私は皆に向かってそう言った。さっきの私の圧が効いたのか、患者たちは指示に従ってくれる。彼らが動くことによって、この部屋のゴミが舞う。

 ……本当によくこんな不衛生な場所で過ごせたわね。

 きっと、医者も看護師も優しい人なのだろう。ここにいる患者たちの相手を一人一人していたはずだ。

 ……そりゃ、掃除にまで手が回らないはずだわ。

 それに相当な心身への疲労があっただろう。

だからこそ、医者も医務室での私の自由な行動を許してくれたのかもしれない。

 ミアは扉を開けて待っている。列を作って、患者たちはブツブツと文句を言いながら、医務室の外へと出る。

「動きたくない」

「動けるのなら、動きなさい。私は優しくはないのよ」

 私はそう言って、髪がぼさぼさになっている女性を無理やり起こす。

 彼女は不服そうな顔を浮かべながらも、部屋の外へとゆっくり足を進めた。

 ……後は、足に怪我を負っている人だけ。

 私は彼の方へと近づき、右足に包帯がぐるぐると分厚く巻かれていることを確認する。

 随分と高齢な方だ。白髪に皺だらけの手、胸元まで伸びてる立派な髭、目はもうほとんど開いていない。

 背中はまんまるとしており、小さく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ