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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「立てる人は挙手をおねがいします」

 私は皆が見える場所に立ち、ここにいる全員に聞こえる声を出す。私の声が医務室に響き渡る。

 私の言葉にちらほらと手が上がる。

「本当にこれだけですか? それ以外の皆様は歩けない患者さんと見なしてだいじょうぶですか?」

 私が圧をかけるようにそう言うと、更に手が上がった。

 私に怯えているようにも見える人もいれば、どうしてこんな女の指示に従わなければならないんだと嫌悪感を抱いている人もいる。

 手を上がっていない人はたったの一人だけだった。

「あら、ほぼ全員? それは健康だこと。では立てない患者さん以外、全員その場に立ちましょう」

 私がそう言うと、医者は困惑した様子で私の元へと来る。

「ちょっと、君勝手なことは困るよ」

「動ける人間を寝たきりにするのは良くないと思います。まぁ、そんなことよりも、この汚くて臭い場所を一度綺麗にした方が良いと思います。風通しも悪いですし……」

「一体君に何が分かるんだ」

 私の強引さに医者は機嫌を悪くしたようだ。

「患者の状態が一向に良くなっていないんですよね? なら、他の方法を試みるべきです」

「……そ、それは」

「精神を病まれている患者は何人ですか」

 私がそう聞くと、医者は目を逸らす。

 この医務室はどこか隔離されているように思う。流行り病でもないのに、除け者にされているような雰囲気……。

「人が次々と辞めるような職場を何も改善せずにずっとこのままにしておくつもりですか?」

「ここは私の医務室だ……」

「では、許可をください」

「なにをむちゃくちゃな……」

「そのうち、彼女も辞めてしまうかもしれませんよ」

 私は強い口調でそう言って、看護師へと視線を移す。彼女はどこか不安そうな目で私たちを見ていた。

「……この先ずっとこの仕事を続けるのは大変でしょ?」

 私は看護師を見つめながら、そう聞いた。彼女は医者の顔色を窺いながらも口を開く。

「か、改善しましょう、先生。こんな状態おかしいです。ここにいるのは、足に怪我を負っているあの方以外、全員体は健康です。これほどの患者さんたちがずっとこの医務室に滞在していることは、問題です。全員のメンタルケアは、私の体力も気力も全て消費してしまいます。……それは薄々先生も気付いていたのではないですか?」

 看護師は医者に真剣な表情でそう語る。

 ……彼女は心の底でずっと不満が溜まっていたのかもしれない。医者はこの医務室を一瞥する。

「…………私の力不足か」

 医者は静かにそう呟いた。

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