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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「もうこんなドロドロしたところ嫌~~!」

 私は離宮を出て、体を伸ばしながらそう声を上げた。ミアが「アリシア様?」と私を驚いた様子で見ている。

 こんな窮屈な場所、いつまでもいていられない。

パーティーまでの辛抱だと思っていたけれど、息が詰まりそうだわ。

 ……体を動かしたいわ。運動はリフレッシュできるもの。

「どこか運動できる場所はある?」

「……運動、ですか?」

「ええ。……あんな場所にずっといたら、肩が凝るわ」

「あ、良い場所がありますよ」

 ミアは何かを思い出したように私にそう提案した。

「……いい場所?」

「そうです。行きましょう」

 彼女に連れられるまま、私は歩く。

 広い敷地をかなり歩いた。一つの低い建物がポツンと王宮や離宮から離れた場所にある。

「あそこは?」

 私は彼女にそう問うと、ミアは「医務室です」と答えた。

「王ではなく、貴族たちのためのものですけれど」

 ミアは更にそう説明を加えた。

 私は頭に疑問符が浮かぶ。

 どうして私は医務室に連れられているの?

 運動がしたいって言ったのに……。もしかして、ストレスを抱えていると思われて、医務室に連れられてる?

 良い場所があるって、お医者さんにメンタルケアをしてもらえってことだったの?

 いや、まだ分からないわ。ここから突然ルート変更して、訓練場が現れるかもしれない。

私は勝手にそんなことを考えながら、建物の前まで来た。

「ここです」

「ここかぁ」

 やっぱり医務室だった。

「……私、別にどこも悪くないわよ? 診てもらわなくても」

 私の言葉にミアは首を傾げる。

「診てもらいませんよ?」

「え?」

「アリシア様はここで手伝いをしてもらいます」

「手伝い……?」

 私はミアの言葉にますます眉間に皺を寄せる。そんな私を無視して、ミアは建物の扉を開けた。

「え、ちょっと」

 私は慌ててミアに声をかける。

 完全に置いていかれている。ミアのペースに巻き込まれることになるなんて。

 建物に足を踏み入れて、周りを見渡す。ベッドが多く並べられていて、患者が寝ている。ほぼすべてのベッドが埋まっていた。

 かなり広い医務室なのに、働き手はあまりいない。一人、看護師のような人がいるが、その人はずっと忙しそうだ。

 ……そんなことある?

 王宮にある医務室ってこれほど埋まっているものなの?

 患者と医療従事者の数が合っていない。看護師はあちこちに患者に呼ばれて、その対処をしている。到底一人ではまかないきれない仕事量。

 労働環境が最悪と言ってもいいかもしれない。

 暫く開けられていない窓には蜘蛛の巣がかかっているし、床はべたついて汚れている。それに、ベッドのシーツも洗えているとは思えない。

 その埃っぽく不衛生な環境に思わず咳き込んでしまう。こんな閉鎖的な場所にいると、ますます病状が悪化しそうだわ。患者の顔に覇気がないもの。

 …………どうして私はこんな場所に連れて来られたの?

 私が不思議に思っていると、奥の部屋から眼鏡をかけた一人の中年男性がやって来た。少しふくよかな体が特徴的だ。

 あの人が多分医者よね……。

「ミアではないか、手伝いにきてくれたのか?」

 中年男性はミアを見つけるなり、私たちの方へと寄って来る。その柔らかな表情にかつて魔法学園でお世話になったジョン先生の面影を感じた。

 ……ここで働いているお医者さんだから、もっと怖くて頑固な人を想像していたわ。

「ちょっと、お待ちください。今、先生を呼んできますので。先生! 来てください!」

 看護師が中年男性に向かって大きな声を出す。

「ああ、すぐ行く。少し待ってくれ」

 看護師に向かって男性は言葉を返す。

 やっぱり、医者だった。


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