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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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 私の小さな独り言にミアは無表情でそう返した。

 さっきミアに「関わらない方が」ってアドバイスを受けたばかりなのに。

 関わりたくて関わっているのではない。勝手に巻き込まれるだけ。

「……貴女、今私を見て笑った?」

「ええ」

 私は正直に答える。

 もう巻き込まれてしまったものはしょうがないわ。

 ミア曰く、王子の愛人――今は愛人と呼んでおきましょう。愛人は唇を僅かに震わせながら私を見ている。

 私に笑われたことがよっぽど不快だったのかしら。

「も、申し訳ございません」

 ずっと怯えながら謝っている仕立て屋の助手に私は声をかける。

「頭を上げなさい」

「……え」

 彼女は横目で私を見る。驚いた表情を浮かべる彼女に私は更に言葉を付け加えた。

「いつまで頭を下げているの。折角のその美しい髪飾りが落ちてしまうわよ」

 私は彼女の頭に刺さっている薄緑色の宝石が綺麗に散りばめられた華やかな髪飾りに目を向けた。

「私は許可しないわ!」

 愛人は大きな声で私に向かって叫ぶ。助手はもう顔を上げたところだった。

「……その汚い手で私の衣服に触れるなんて! 私の服に触れて良いのは、レーネだけよ! 彼女の仕立てじゃないと一切受けないわ! 彼女は貴族の血が流れているんだもの。こんな下民とは大違いよ」

 ヒステリックになったように彼女は声を荒げる。

 周りの女性たちは慣れているのか、特に驚いた様子はない。ただ、何が起こっているのか確認する為にさっきよりも視線が増えた。

「貴女の汚い手を切り落としてやるわ!」

 愛人の声に助手はビクッと体を震わせる。愛人は憎悪のこもった視線を助手に向けて、言葉を発する。

「頭を下げなさい」

 助手はその言葉に少し戸惑っている。私は助手をじっと見つめた。こんな圧に屈するな、と目で彼女に訴える。

「ねぇ、なにをしているの? まだ謝罪の途中でしょ?」

「シャキッとしていなさい」

 私は愛人の言葉に重ねるようにして、口を開く。

「私は貴女に言ったはずよ。『美しい髪飾りが落ちてしまう』と。己の美しさは己で守りなさい。じゃないと、他人を美しくすることなんてできないわよ」

「……気に入った」

 私の言葉に反応するように、突然後ろから女性にしては低い声が聞こえた。

「オーナー」

 助手は安心する目で私の後ろを見つめていた。私はゆっくりと後ろを振り向く。

「レーネ!」

 愛人の耳が痛くなるほどの高い声が響く。

 彼女だわ。近くで見ると若いことなど忘れて、ただ威厳を感じた。目は吊り上がっており、強い目力。少し分厚い唇が印象的な整った顔。

 彼女にしか醸し出せない独特な魅力がある。

「リラ、お前は謝るようなことをしていない。堂々としていろ」

 口調が男性的だ。

 偏見だが、街一番の仕立て屋である女性はもっと柔らかで、しとやかな感じだと思っていた。いい意味で想像を裏切ってくれた。

「貴女まで、私の敵ってわけ?」

「私の大事な助手のことを『下民』と言ったのだから、その罪は重いぞ」

 レーネの口調が、若い女性の喋り方でないことに最初は少しだけ困惑したけれど、すぐに慣れた。

「……私に反抗するつもり?」

 信じられないという表情で愛人は半笑いでレーネの方にゆっくりと歩いて行く。

 こんな展開は珍しいのか、いつの間にか周囲の女性の視線は私たちの方に集まっていた。

 レーネは何も言わず、ただ黙って愛人を見ている。睨み返しているわけでもなく、ただじっと見ているのだ。

 彼女が真っ直ぐ愛人を見つめる瞳には迫力がある。

「二度とこの離宮に足を踏み入れないようにしてあげるわ。貴女の店も潰してやる。誰に喧嘩を売ったのか分からせてあげるわ」

「別に構わない。離宮が、二度と私の仕立てを受けることができなくなるだけだ」

 その余裕な返答に愛人はますます顔を真っ赤にして怒りを表情に表す。

「レーネの仕立てを受けれないなんて……」

「そんなの嫌だわ。勝手に決めないでほしいわ」

「……迷惑な人だわ」

「前から思っていたけれど、彼女って本当に下品だわ」 

 全部、愛人のことだろう。

 コソコソと女性たちが私たちの周りで話している内容が耳に入ってくる。

 


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