686
「アリシア様、大丈夫ですか?」
私は王妃様の部屋を出た後、ぼーっと固まってしまっていた。そんな私を心配して、ミアが私の顔を覗く。
「……ええ。ただ、知ってしまった事実があまりにも…………」
「あまりにも?」
「しみったれていたわ」
私はそう言って笑顔を作った。
そう、笑うしかない。感傷的になるのは性に合わない。
「しみったれていましたね」
私の言葉にミアはそう返した。思わず彼女の方を目を丸くして見つめた。ミアは私の感情を把握しているかのような表情で私を見つめ返していた。
「そもそも、どうしてまだオーヴェン国王はそんな夫人を庇っているのよ」
私がそう呟くと、ミアは少し間を置いて答えてくれた。
「庇っていませんよ。ルビア夫人が憎いのはデューク様と同じです。それに離宮で好き勝手しているローザに対しても印象は悪いはず。…………ただ国王陛下は、アメリア様がデュルキス国に嫁がなければこんなことは起きなかった、とも思っているんでしょうね。やり場のない怒りを未だに抱えているんだと思いますよ」
「……だからといって、デュルキス国との関係を終わらせようとするのは違うでしょ」
「それもきっとどこかでは分かっているはずですよ」
ミアの言葉に私は「そうかしら」と小さく呟いた。
オーヴェン国王の馬鹿!!!! 面倒くさい王様ね!!
私は心の中で大きな声でそう言った。
アメリア様への愛が深いのなら、ちゃんと貴方もアメリア様の志に従いなさいよ。
「あ~~~、デューク様はうまくやってるのかしら~~」
私はそう言って、腕を天井に向けて体を伸ばしながら歩き始めた。突然の私の言葉にミアは戸惑う。
そうだわ、ミアは何も知らないだったわ。私が貴族を丸め込んで、デューク様は民衆を……。
どう考えても、無謀な計画よね……? ……デューク様なら成し遂げるんでしょうけど。
私は思わず口を尖らせてしまう。
デューク様は気付けばいつも上にいるから、たまには私も隣に並んでいたいわ。……やるしかないのよね。
「誰から落とそうかしら……」
貴族を丸め込むっていっても…………、未だに誰も丸め込めていない。この離宮を仕切っているローザはもうこれ以上話をしても無駄な気がするし……。
難しいわ……。
私はうなりながら、自分の部屋へと足を進めていた。




