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私の質問に王妃様はニヤッと笑う。
「良い質問だ。侍女に落ちるのは簡単なこと。ルビアの例で言うと、『アメリアを悪く言った』だ」
…………それだけで?
「ああ、それだけだ」
私の心の声を読んだのか、王妃は頷き、話を続けた。
「国王が真に愛しているのは私だけだ。他に対しては容赦がない。ローザはかなり生き延びている方だと思うわ」
王妃様が楽しそうに笑うから私もつられて笑う。
「私たちに見せている顔と国王陛下に見せている顔は全く別のものなのかもしれませんね」
「ああ、そこが彼女の賢いところだ。……ここでは賢き者しか生き残れない。……ルビアの話に戻ろう。彼女は馬鹿ではなかったが、強い信念を持っていた。その正義感が強いあまり、あんな悲劇を生んだのだ」
そう言い終えると、王妃様は一度ティーカップを口に運んだ。
確かに、強い信念を持つことは素晴らしけれど、行動を起こせば、時として誰かの悪になる……。
信念なんて人の数ほどあるもの。一つの信念が膨れ上がった時が怖いわ。
「アメリア姫はデュルキス国に魂を売った。……デュルキス国のスパイとなり、メルビン国に凶兆をもたらす」
突然の王妃様の言葉に私は「え」と声を漏らす。
デュルキス国に魂を売ったっていうのは耳にしていたけれど、その続きがあったとは……。
「ああ、後は『国の破滅に鐘を鳴らす!』なども言っていたな」
「……それを国王陛下の前で言ったのですか?」
私の言葉に王妃様は「まさか」と笑みをこぼす。
「そんなことをすれば、侍女落ちではすむまい。『姫様のことを警戒した方が良い』と言っただけ。……ただ、オーヴェンからすれば気に食わなかったのだろう。アメリアのことをもっとよく知ればそんな思いはなくなるだろうとルビアをアメリアの侍女にした。……それが大きな間違いだったのだけれど。ルビアがアメリアに対して殺意を持っているほどだとは思わなかった」
こちら側がルビアに対して警戒をしなければらなかったのね……。
私はそんなことを思いながら、黙って王妃様の話を聞いていた。
オーヴェン国王もなかなかの王様っぷりだ。……デューク様のおじい様だからあまり悪くは言えないけど。
「侍女に落ちたとしても、自分より下の位の者に仕えることはない。だから、ルビアはアメリアに仕えることができた。……オーヴェンは今でもそのことを後悔しているわ」
そう言った王妃様の瞳は悲しみに覆われていた。
朝日は昇り、部屋はすっかりと明るくなっていた。私は朝日を見ながら、この景色をもう二度と見ることのないアメリア様を想った。
「……アメリア様はルビア夫人の殺意に気付かなかったのでしょうか」
私はふと思ったことを呟いた。




