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テーブルが三つほど用意されていて、私はミアに導かれて椅子へと座る。
三つの長いテーブルの前には二つの席が用意されている。きっと、王妃とローザの席だろう。まるで祭壇ね……。
私の周囲の女性は物凄く険しい表情を浮かべた。ああ、「ここから消えろ」って眼圧を感じるわ。
敵の強さがどれぐらいのものかとはからずに喧嘩を売っていたら、いつか痛い目に遭うわよ。
私はそんなことを思いながら、運ばれてくる夕食に目を向けた。ナシェが丁寧に私の前へと銀食器を置く。蓋を開けるのは、王妃たちが席についてからのようだ。
……王妃様ってデューク様のおばあ様よね?
どんな方なのかしら……。オーヴェン国王同様に高圧的な雰囲気を醸し出しているのかも……。
私たちは二人の登場を待った……が、現れたのはローザだけだった。
相変わらず私のことを冷気を帯びた眼差しで見つめてくる。
……私ってば、人生においてこういう視線を向けられがちじゃない? まさに望んだ悪女の道を突っ切っているじゃない! 有言実行!
私がローザに笑みを返すと、彼女は嫌そうな表情をしながら目を逸らした。
ローザは席が席に着くと、この場にいた全員が彼女に注目し、黙った。まるで王妃のような態度だ。
「オレーネ様は体調が優れないようだ。私抜きで食事をするように、と伝言を預かった」
ローザの言葉にみんな特にざわつく様子もない。
私は席の真後ろに立っているナシェにコソっと聞く。
「よくあることなの?」
「……はい。近頃、部屋から出ている様子はなくて……」
「ありがとう」
ローザがグラスに入ったお酒を飲んだのと同時に夕食が始まった。一気に場は騒がしくなる。
ナシェは私の料理を開けてくれた。
その瞬間だった。私の横にいた女性が甲高い叫び声を開けた。
……それもそのはず。
蓋を開けられたスープの中には虫の死骸が沢山浮いていたからだ。
私は声を出さずに、目を丸くした。一気に女性たちが叫び声が会場に響き渡る。
…………これはなかなかね。嫌がらせにしては幼稚すぎるけど。
虫が入っていたことよりも、それに騒ぎまくる女性たちに驚く。……うるさいわね。
「虫よ!!!」
「なんて汚らしいの!!!」
「今すぐ席を変えてちょうだい!!」
ああ、黙ってちょうだい。静かに食事すらさせてもらえないの?
「ご、ごめんなさい」
隣でナシェが体を震わし、目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
……何も知らなかったのね。
私の元にこれを運びなさい、と言われて運んだだけだろう。
これは随分と厄介なことになりそうだわ。




