676 十六歳 アリシア
私はデューク様との話を終えて、王宮へと戻った。
離宮の中は夕食の準備がされていた。どうやら、夜は女性たちが集まってあの広場で食べるようだ。
デューク様の元へと案内してくれた侍女が教えてくれた。……私と話すことがとても嫌そうに見えたけど、そんなことは気にしない。
あの広場は「ギュゼル広場」と言い、団欒の場だそうだ。
「私もあそこで食べていいかしら?」
私がそう言うと、侍女は露骨に顔をしかめた。
そんな顔をしていたら、眉間に皺が出来てしまうわよ。
「もちろんです」
侍女の返答を待っていたら、いつの間にか横にミアが立っていた。
ミア! 待っていたわ!
私はミアの方へと視線を向けた。彼女の顔は青白く、どこか体調が悪いように思えた。
「……何かあった?」
「いいえ、大丈夫です。行きましょう」
ミアは私と目を合わせない。
…………何かしら。なにかあった気しかしないわ。
侍女が「ミア! 勝手にそんなこと!」とミアに対して声を出す。
「大事な客人よ。メルビン国はそんな下品な国じゃないでしょ」
ミアの強い口調に侍女が黙り込んだ。するとそこに高い声が入って来た。
「この女をもてなしているってだけで私たちの格が下がるわ」
声の主の方を見ると、底には派手に着飾った女性たちが数名私を睨みながら立っていた。
……昨夜広場にいた女性たち。……王子の愛人と言ったところかしら。
ミアは彼女たちに頭を下げない。……ということは、私も頭を下げなくてもいいわよね。
私はにこやかに笑みを浮かべる。
黙り続けるのよ、アリシア。今は我慢する時だ。四日後のパーティーまでは何があっても、穏やかに過ごしておこう。
「デューク様の客人です。口のきき方にお気をつけください」
ミアの言葉に女性たちは舌打ちをして、去っていく。
デューク様、というワードがここでいかに強いか思い知らされる。またデューク様に助けてもらったわ。
「そういえば、デューク様のお姿見かけましたわ」
「私もですわ!」
「物凄くお美しくなられていて……、はぁ、私も彼に見初められたりしないかしら」
「一人だけ抜け駆けなんて狡いですわ」
「……そういえば、あの女がデューク様と仲睦まじく散歩してる姿を見たっていう情報があるのよ」
「はい!? あいつデューク様の女なの!?」
「使用人が掃除をしている時に丁度見ていたんですって」
「たしかに顔は綺麗だけど……。顔だけじゃない、取り柄」
「というか、本当にデューク様の女なら…………」
「だ、大丈夫よ。デューク様がメルビン国に自分の女なんて連れてこないわよ。何が起こるか分からないもの」
女性たちの会話が私のところまで丸聞こえだ。
あのデューク様の散歩って効果があったのね……。それにしても、やっぱりデューク様って人気なのね……。
私はそんなことを思いながら、ミアに連れられて自分の席へと座った。




